MUJIキャラバン

"業"としての有機農

2013年09月04日

「私たちが実践しているのは有機栽培ではなく、有機"農業"。
つまり"業"として、それを生業にしているのです。
食べていける農業でなくちゃ、人に勧めることはできませんから」

モアークグループ代表の西村松夫さんは、開口一番そう切り出しました。

モアークグループは、
茨城県つくば市に本拠を置き、長野県佐久市、パラオにも農園を構える、
有機野菜の生産・加工・流通までを手掛ける企業グループ。

安全安心の作物の流通および、
汎用性の高い有機農業の普及活動にも取り組んでいます。

「日本の有機野菜の流通は全体のわずか0.2%。
これは由々しき事態です」

そう話す西村さんはもともと、アメリカの大手穀物商社に勤務。
そこで、品種改良に改良が加えられていく農作物の実態に危惧を覚えたといいます。

「改良され生産しやすくなった農作物は、生産者にとっては都合が良いかもしれません。
ただ、生態系を壊しながら作られるような農作物が、消費者にとっても良いわけがない。
目先のことしか考えずに、次の世代に残そうという気がないんですね」

こうした問題意識の芽生えた西村さんは、その後、大手金融機関勤務を経て、
消費者にとって本当に良いものを追求すべく、
18年前にパラオへと渡り、農業の実証実験を始めました。

なぜ、パラオだったのか?
それは、地球全体の温暖化から、と西村さんは話します。

「日本も既に亜熱帯化し始めていますが、やがて熱帯になる可能性もある。
そのためには、熱帯地方での農業の技術を学んでおく必要があると思ったんです」

こうして始まった西村さんのパラオでの挑戦は、
現在では「パラオ・オーガニック・ファーム」として、
つくばと同様、葉物類や日本では作れないノニを生産しているそうです。

そして、西村さんがたどり着いたのが、"草農法"でした。

自然界では、植物は枯れた後、微生物によって分解され、
腐葉土と呼ばれる土に還っていきます。

草農法とは、この自然界の循環に従い、草を主原料とした堆肥づくりを行うもので、
農薬や化学肥料が使用されるより以前より
世界中で古来より行われてきた伝統的な農法だそう。

草が腐葉土になるという話には一瞬、首を傾げましたが、
モアークの堆肥場には、河川敷で刈られたという草が大量に置かれていました。

切り返しを行いながら半年間寝かされた草は、
実際に土へと変化していることがうかがえました。

河川敷の刈り草を使用するのは、
河川の水が飲用にもなるため、農薬などの散布が禁止されているから。
これまでは大量に廃棄処分されていたものの再利用にもつながっているそうです。

「この草はやがて分解され、やがて+と-のイオンへと変化します。
-イオンは主に微生物が食べ、+イオンを野菜が吸収するんです。
この+と-を掛け合わせると"土"という字に変わるでしょう。
昔の人は知っていたんだと思いますよ。草さえあれば、農作物は作れるんです」

西村さんのいう、汎用性のある有機農業とは、このことでした。
草をベースにした堆肥づくりは自然循環そのもので、
除草剤など使用していない土地であれば、どこでも実現できることでもあります。

こうして土壌に有機物をきっちりと供給してできた野菜は、
ミネラルを多く含み、作物から作られるビタミンの含有量も多くなるそう。

こんな野菜のおいしさを、ごく一部の人のみならず、
多くの家庭で味わってもらいたいと、
モアークの培養土と草堆肥などをセットにした
「有機野菜栽培キット」も作っていました。

さらに、"業"として成り立たせるためには
「加工」も大切と、西村さんは語ります。

「加工品を作るのは、昔でいう"保存"の目的です。
どうしても出荷できない分の野菜ができてしまうこともありますからね」

旬の野菜を収穫後すぐに加工できるよう、農園内に併設された加工工場では、
合成人工添加物を一切使用せずにジュースやドレッシングが作られていました。

試しに有機トマトジュースを味見させていただくと、
その濃厚さと、自然の優しい甘みに驚かされました。
トマトジュース嫌いのキャラバン隊も、思わず「おいしい!」と驚愕したほどです。

こうした旬の野菜や加工品を基に食事療法を意識した店舗・レストランが、
今年秋、東京都目黒区にオープン予定。

これまで培ってきたノウハウを普及するための講座も開催し、
より多くの人に食べていける有機農業を教えていく予定だそうです。

「経済優先を変えられない世の中だけど、
一人ひとりが歴史から学び、太陽と対話しながら、
自然になじんでいくことが大切だと思うんです。
それを伝えていくことが、私にできる最後の天命だと思っています」

20人もの若者を雇用しているのも、
後世につないでいける農業を普及したいという、
西村さんの想いの表れのように感じました。

地球にも人間にも優しい農業と、現代社会で生き残っていくための経済活動。
一見、両立しにくいこの両輪を見事に回していきながら、
西村さんは自身の天命を追求し続けています。

  • プロフィール MUJIキャラバン隊
    長谷川浩史・梨紗
    世界一周の旅をした経験をもつ夫婦が、今度は日本一周の旅に出ました。
    www.cool-boom.jp
    kurashisa.co.jp

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