MUJIキャラバン

南部鉄器~日本から世界へ、伝統から未来へ~

2012年08月07日

「お茶にしましょうか?」

この旅路でも、幾度となく設けてきたお茶の時間。

思えば海外でも、コーヒーブレイク、アフタヌーンティー等、
それぞれのスタイルで、ティータイム文化は存在していました。

そんな海外のティータイム文化に、
ある日本の商品が受け入れられていること、ご存じですか?

岩手県で作られている「南部鉄器」です。

重厚な味わいを持つ南部鉄器は、一見アジアを想起させますが、
アメリカやフランスをはじめとしたヨーロッパでも大人気。

アジアでは、お湯を沸かす際の鉄瓶が受け入れられ、
欧米では、お茶を入れる際の急須が好まれています。

電気湯沸かし器で沸かしたお湯を、
冷めにくい南部鉄器の急須に入れてティーを楽しむのが、
欧米の乙なティータイムなんだとか。

「もともと、鉄に黒の漆を塗っていたことから、
南部鉄器といえば黒が一般的でしたが、
これらカラフルな急須は、欧米向けに生み出されました」

そう教えてくださったのは、岩手県奥州市で南部鉄器を製造する
及源鋳造株式会社の及川久仁子社長。

なんと160年もの歴史を持つ会社の5代目社長です。

南部鉄器のルーツは、盛岡と奥州で異なるようで、
殿様の献上品としての鉄瓶づくりが主だった盛岡に対して、
奥州は、庶民の生活道具のための鉄器でした。

材料である良質な鉄、砂、粘土が採れたことも、
鉄器づくりがこの地に根付いたゆえんのようです。

「南部鉄器は伝統工芸品ですが、工業製品でもあります。
だからアレンジがしやすかった。それも大きいと思います」

及川社長がそう話すように、
高度経済成長期に工場は機械化。

生産性の向上を図り、
工業製品としてのものづくりを確立させました。

「あとは技術力。
鉄瓶や急須のように、内部が空洞な壺のような形で、
これだけ薄い鉄で、きめ細かい模様を施せる技術は、
他国にはないと思います」

当たり前のように、そのデザイン・技術力を話す及川社長ですが、
15年前までは、鉄瓶・急須は手掛けてはいませんでした。

この産地は、それぞれの工場で作る商品種類が分かれており、
及源鋳造では鉄鍋を中心とした商品ラインナップでした。

しかし、お客様のご要望にお応えするためには、
自ら商品開発をしマーケットを広げていくことが必要と、
及川社長は、鉄瓶・急須づくり進出を決断。

それまで一升が一般的だった鉄瓶も、
核家族化が進む現代においては1リットル以下の容量が必要と、
生み出した小さい鉄瓶は大ヒットを記録しました。

合わせて、欧米で人気を博した急須などを生み出したのは前述の通りです。

また、本業だった鉄鍋においても、とどまることを知りません。

高温で焼きしめ、全体を酸化皮膜で覆うという、
これまで南部鉄瓶に用いられていたサビ止め手法を鉄鍋にも応用。

「超南部鉄器」と謳った「上等鍋」が誕生しました。

サビ止めのための余計なコーティングがされていない分、
熱が伝わりやすく、料理人からの評判も高いといいます。

こうした新しいことに取り組みながらも、
原点の南部鉄器の製法を忘れてはいけないと、
同社では、後継者育成事業にも取り組んでいます。

南部鉄瓶の伝統的な製法を継承すべく、2人の若手を受け入れ、
伝統技法を継承するプロジェクトを立ち上げています。

「伝統があるから、今がある。
これが全く新しい技術だったら、味わいも変わると思うんですよね」

そう言いながら、及川社長が、
南部鉄器で沸かせたお湯で出してくれたコーヒーは、
本当にまろやかで、深い味わいがしました。

「伝統が残っていることに感謝しなくちゃね。
残したくても残せない国や地域もたくさんあるのですから」

確かに、地域ごとに脈々と文化が残っている私たちは、
幸せなのかもしれません。

  • プロフィール MUJIキャラバン隊
    長谷川浩史・梨紗
    世界一周の旅をした経験をもつ夫婦が、今度は日本一周の旅に出ました。
    www.cool-boom.jp
    kurashisa.co.jp

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