MUJIキャラバン

親子で紡ぐ、ホームスパン

2013年11月20日

岩手県の産業のひとつである「ホームスパン」とは、
"家庭(ホーム)"で"紡いだ(スパン)"毛織物のこと。

その技術は、明治時代に英国・スコットランドから伝わり、
東京より北の地方に広まったそうですが、
今では全国生産の多数を岩手県が占めています。

「今もホームスパンを続けているのは6軒ほどになりましたが、
コツコツやってきた所が残っています。
うちの工房は、私の祖母である中村ヨシが大正8年に始めました。
当初、ホームスパンの講習会があると聞いた時には、
パン作りかと思ってお鍋を持って出掛けたそうですよ(笑)」

お茶目な笑顔で話すのは、盛岡市内でホームスパンを手掛ける、
中村工房の3代目、中村博行さんです。

中村さんいわく、昔はどこの農家にも織り機があり、
飼っていた羊の毛で、自分たちの着るものを織っていたそう。

その後、時代の移り変わりとともに織りの世界でも当然、機械化が進みます。

中村さんの父親の代には、機械を導入したこともあったそうですが、
海外からより安価な製品が入ってきて、失敗に終わってしまったといいます。

その時の教訓もあり、中村工房では今も手織りにこだわります。

「機械織りだと、シャトルのスピードが速いから風合いが出せない。
手織りは糸がリラックスできるでしょ。そこがよさだと思いますよ」

確かにこれまで訪れてきた機械織りの工場では、
カシャンカシャンと忙しく機械が動いていたのを思い出します。
また、手織りでも綿の場合などは、トントンと糸を詰めながら織りますが、
ウールの場合は、糸に負担をかけずに織るため、工房内はとても静かな印象でした。

織物というと、織る工程にどうしても目が行きがちですが、
中村工房では、羊毛を手で染めるところから始まり、
それを足踏みの糸車で紡いで糸にし、

整経(せいけい)といって織るために糸を整えたりと
一連の工程をすべて手作業で行っています。

工房に並ぶのは、どれも木製の年季の入った道具で、
眺めているだけでどこか懐かしい気分にさせてくれます。

中村工房では、中村さんのご両親の時代までは
服地やコート地を中心に織っていましたが、
中村さんの代になり、マフラーを中心とした小物に商品をしぼるように。

その理由を
「服地は高価なものだからお客様が限られてしまうでしょ」
と中村さんは話します。

また、デザイナーの三宅一生氏との出会いも影響しているそう。
中村さんは20年以上に渡り、イッセイミヤケのコレクションにおいて
マフラーやストールなどを頼まれ、

そのなかで、シルクリボンや機械紡ぎの糸を使った、
ホームスパン以外の手織り製品も手掛けるようになったのです。

「冬向けにホームスパン、夏向けにはシルクや麻などを使って織っています。
ぜひ見てください」

そう言われてショールームに入ると、
ナチュラルカラーのホームスパンの横にある
それとは対照的なビビッドな色合いのものが目に飛び込んできました。

「ショールームはお客様に見てもらう場であり、
反省の場でもあるんです」

一つひとつ中村さんが手で染め上げる糸の色は、
織ってみて、初めてその表情が見えてくるといいます。

そして、中村さんがこだわるのが"旬"の色。
これまでに染めた糸をスクラップした、染色ノートは40冊以上もあり、
中村さんはそのための情報収集を日々欠かせません。

毎月10数冊という女性誌に目を通し、気になる色を再現していくのです。

さらに、ショールーム内に飾られた
愛くるしいお人形や小物入れ、香水瓶など、
すべては中村さんの趣味のコレクションであり、
色のヒントを得る大切な研究材料でした。

「ホームスパンだから、ってことにこだわるのではなく、
伝統は守りつつも、あとは時代に合わせて変えていけばいい。
そうしないとつまらないでしょ」

中村さんの、自らのやり方で楽しみながら仕事をする姿を見て、
息子の和正さんも5年前から工房で働くようになりました。

「親父は親父の感覚で、俺は俺でやってきた。
手織りだけは今後も変えないで、楽しみながら続けていきたいですね」

そう語る中村さんの言葉の裏には、息子さんに対して
「お前はお前のやりたいようにやっていけ」
というエールが込められているようにも聞こえました。

4世代に渡り、その技術をつないでいる中村工房のホームスパン。
ゆっくりと時間をかけてハンドメイドで作られる手織り物が
今後どのように変化していくか、とても楽しみです。

  • プロフィール MUJIキャラバン隊
    長谷川浩史・梨紗
    世界一周の旅をした経験をもつ夫婦が、今度は日本一周の旅に出ました。
    www.cool-boom.jp
    kurashisa.co.jp

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