日本の縁起物「キナキナ」と「うるしダルマ」
よいことがあるようにと祝い祈るための品物、「縁起物」。
それらの対象は五穀豊穣、商売繁盛、家内安全、無病息災、子孫繁栄
などで、多岐にわたります。
私たちの身近なところでいうと、
"年越し蕎麦"やお食い初めの"鯛"なども縁起物ですし、
居酒屋やお店の軒先でよく見かける
"たぬきの置物"や"招き猫"などが代表的です。
また、各土地によって異なる縁起物が存在するのも
面白いところかもしれません。
例えば、東北地方のこけし。
もともとこけしは、江戸時代後期、木地師が東北の温泉地で、
湯治客や子供相手に作ったのが起源とされます。
ある記録によると、こけしのことが「こふけし(こうけし)」と記されており、
「子授けし」、つまり子供を授かるというお祝いの意味で、
こけしは子供の健康な成長を願うお祝い人形とされている説もあるとか。
こけしの顔や形、模様は産地ごとに様々で、
青森の津軽系、宮城の鳴子系、山形の蔵王系など11系統に分けられていますが、
今回は、岩手県花巻市に、南部こけしの職人を訪ねました。
新花巻駅から車ですぐ、宮沢賢治記念館の隣にある工房へ一歩入ると、
なんだかそこはおとぎ話の世界のようです!
「"こけし"という呼び名は昭和15年に鳴子で行われた会議で決まったんですよ。
この辺りでは首が動く様子から"キックラボッコ"や"キナキナ"と呼ばれています」
作業の手を止めて、南部こけしについて教えてくださったのは、
工房木偶乃坊(でくのぼう)の煤孫盛造(すすまごもりぞう)さんです。
煤孫さんは3代目で、おじいさんが大工さんに依頼された木地仕事の空き時間に、
"キナキナ"づくりをしていたといいますが、この趣がまた珍しい。
こけしというと、細い目におちょぼ口の愛くるしい少女の表情が浮かびますが、
"キナキナ"は、顔や胴の華やかな模様が一切描かれていない
とてもシンプルなものなのです。
また、頭が小さく胴の下部がくびれた形も特徴的。
というのも、"キナキナ"は赤ん坊のための木のおしゃぶりだったそうで、
口に含むことから、絵付けをしなかったのだといいます。
今では、顔を描く南部こけしも出てきていますが、
煤孫さんは、絵付けをする代わりに、木目をそのまま楽しめるようにと、
30種類以上の木を使って、多彩な"キナキナ"を生み出しています。
製作の様子を見せていただくと、その作業の素早いこと!
円柱の木材が煤孫さんの手業によって、みるみるうちに形を変えていきます。
1本の材から先に切り出した頭の部分を、
胴体部分に開けた穴に差し込んだら出来上がり!
「親父の手伝いから始まったこの仕事も、もう40年以上になりましたが、
マイペースに楽しくやってきました」
そう話す煤孫さんは、地元の文豪である宮沢賢治をモチーフとした
「デクノボーこけし」(写真左下)や、「ピエロこけし」(写真右下)などの
創作こけしも作っています。
首が左右にゆっくりと揺れる南部こけし"キナキナ"は、
赤ん坊のみならず、私たち大人にも癒やしを与えてくれます。
もう一つ、このキャラバンで、各地で見て来た縁起物といえば、ダルマ。
そのルーツは南インドの国王の第三王子であり、
仏教の禅宗の開祖の"達磨大師"であると知ったのは群馬県でのことでした。
達磨大使は洞窟で9年間も座禅を組み続けたといわれる人物。
何があっても必ず起き上がるところから、
宗教・宗派を超えた縁起物として、日本全土で広く親しまれており、
その姿形は各地の文化・風習によって少しずつ異なり、
地域の人々の願いが託されています。
そんななか、絶対に転ばないダルマが福井県小浜市にあると聞いて伺いました。
これがそのダルマ「うるしダルマ」
県指定の郷土工芸品であり、
小浜市からアメリカのオバマ大統領に贈られたこともあるそう。
「私の家は父が病気がちで、小さい頃ド貧乏でした。
もうわしは転ばん!って、転ばないダルマを父と一緒に創り出したんです」
そう話すのは、うるしダルマを手懸ける、柄本忠宗さん。
20歳まで外国航路の船員として、海外を回っていた柄本さんでしたが、
父親が海辺で拾ってきた漆の塊がたまたま割れたところを見て、
「これは綺麗だから何か作れるかもしれない」と発想を膨らませました。
そして、子供から大人まで知っていて、
前向きなものとして、ダルマづくりを思い付きました。
実は小浜市は日本の塗り箸の80%以上が作られているという、
若狭塗り箸のふるさと。
柄本さんのお父さんも病気になる前は漆箸職人で、
いろんな模様を考えて独自のお箸を作っていたといいます。
そんな柄本さんのお父さんが見つけた漆の塊とは、
その塗り箸づくりの工程で余った塗料が固まったものでした。
現在は柄本さんが夫婦で思考を凝らし、塗料を固めてだるまの原型を作っています。
実際に塗料を固めたものを割ってもらうと
中がとってもカラフル!
この塊を小割、研磨して、一つひとつのだるまを仕上げていきます。
そのため、色、形、表情どれをとっても同じものはありません。
表情は描いた時期や気分によっても変わってくるといい、
「最近はダルマと顔が似てきたって言われますね。
でもそれは嬉しいこと。かつて見た仏像の表情を参考に、
いつかその顔を描きたいと思ってやってきましたから」
と柄本さん。
ちなみに下の写真は、
右側のダルマが、柄本さんが20歳の時に描いた顔で、
左側のダルマが数年前に描いたものだそう。
自分たちでゼロから創り出したものが県にも認められ、
一見、順風満帆な人生のようですが、
人手が足りずにお客様が離れていってしまったり、
一時は食べるものに苦労した時もあったといいます。
「ここまでやってこられたのは、奥さんがいたからですね。
年中隣に彼女がいて一緒に作業していますが、ケンカはしません。
ケンカしたらダルマのいい表情が描けませんしね」
小浜一、仲よしといわれる柄本さんご夫妻が作る夫婦ダルマは、
二人の人柄と仲睦まじい様子がそのまま表れていました。
※煤孫さんが作る"キナキナ"と、柄本さんご夫妻が作る"うるしダルマ"は
年始に販売される「福缶」に含まれています。
2014年度の福缶の縁起物は全部で30種類。
どれが出るかはどうぞお楽しみに!