MUJIキャラバン

EAST LOOP

2014年09月17日

胸元を飾る、ハート型のブローチ。

これは東日本大震災後にいち早く始まった、
「EAST LOOP」と呼ばれる、ものづくりのプロジェクトで作られたものです。

2つのハートが重なったこのブローチは、
作り手と使い手がハートでつながっていたい、
というイメージから作られました。

「私自身が阪神淡路大震災で被災しています。
それもあって、東日本大震災後はフラッシュバックで
しばらくまいってしまっていました。
ただ、自分にできることを考えた時に、それはものづくりによる支援だと思って」

EAST LOOPプロジェクトを立ち上げた、株式会社福市の代表取締役、
高津玉枝さんは、そう当時を振り返ります。

「世の中で光の当たっていない素敵なものを紹介していきたい」と、
雑貨を中心とした売り場のプロデュースやPRなどを手掛けていた高津さんは、
90年代後半に"フェアトレード"の概念に出会います。

フェアトレードとは、開発途上国の原料や製品を
適正価格で継続的に購入することで、
生産者や労働者の生活改善と自立を目指す「貿易の仕組み」のこと。

その頃、フェアトレードの商品は、
その分野に興味がある人だけがターゲットでした。
高津さんは、そうではなく、全くフェアトレードを知らない人に届けようと、
大手百貨店や雑貨店に売り場を展開。

2006年に福市を設立し、
2008年から本格的にフェアトレード商品の取り扱いをしています。

「現地にもともとあったものを日本人向けにアレンジすることが仕事です。
現地に負荷をかけすぎず、ブーム性を作らないで
細く長く展開できるように努力しています」

そう話す高津さんが震災後に思い出したのが、
ネパールのタルー族に言われた、
「自分たちで生きていきたい」という言葉でした。

「それは震災で被災した人も同じで、生きている意味を感じるためには、
施しを受けているだけではダメなんです」

高津さんは震災から1ヵ月後の4月中旬に現地入りし、
東北の人と初めて接点を持ちました。

しかし、その時期には、高津さんの構想は時期尚早であり、
「君は被災者に仕事をさせる気か」と言われてしまったそう。

それでも、自身の経験から
「被災者にも何かすることがないと、
すべてがネガティブな方向へいってしまう…」
と高津さんは危惧し、翌5月に再訪。

岩手県遠野市のNPO法人「遠野山・里・暮らしネットワーク」が
現地パートナーとなり、
あとは何を作るかが議論の観点となりました。

そこで高津さんが考案したのが、
「1人で完成できるもの」「作り手のペースで作れるもの」「高く売れるもの」
の3点を軸に据えた、ニット製のブローチでした。

「これなら、糸とかぎ針だけあれば、場所を選ばずにどこでも作れます。
失敗したらほどいてやり直せるのも、
作り手に負担がかからずによかったことですね」

沿岸部の女性を中心に、
最初は20人ほどの作り手からスタートしたプロジェクトも、
これまでに約200人が参加。

出来上がったブローチの裏には、作り手の名前が刻まれていて、
商品代金の50%が生産者グループの収入になります。

作り手の女性からは「生きる力になった」「このお金で美容院に行ける」
などの声が多数上がってきたといいます。

また、「可哀想だからではなく、かわいいから手に取ってもらいたい」
とこだわって作ったブローチなどは、これまでに7万個以上がお嫁に行きました。

「消費者のマインドを少しだけ動かせたかなと思っています。
買い物が自分のためだけでなく、
必ずその裏に作り手さんがいることを知るキッカケになったらうれしいです」

と高津さん。

と同時に、以下のようにも話し、
すでに次なる展開に行動を移していました。

「チャリティーグッズはどんなに頑張っても10年後には売れません。
また、東北に行った際に、震災以外でも仕事がなくて困っている現状を目にして、
東北発の新しい手づくりブランドを作らなきゃと思って」

2013年9月には、「被災地の支援」から「被災地の自立」へとステージアップを目指し、
遠野山・里・暮らしネットワークを中心とした生産者グループに、
これまで福市が担ってきた役割の多くを移管。

また、今年の7月1日より、新たに設立した
合同会社東北クロッシェ村に事業移管し、
ここで新たに活動をすることにしていました。

ちなみに、東北クロッシェ村は、
編み物を得意とする女性たちがその技術を活かして、
企業のOEMなどマーケットニーズに合わせた製品を手掛ける会社です。

「遠野ではジンギスカンが名物なのを知っていますか?
それは、昔から『ホームスパン』が盛んで、羊がいたから。
そんな遠野に"ニットミュージアム"を作るのが私の新たな夢なんです。
ミュージアムができれば海外からも人を呼べるし、
人々がそこへ足を運ぶキッカケになる」

東日本大震災を機に始まった、EAST LOOPプロジェクトでは、
形を変えながらも、東北の地に根ざしたものづくりが継続されていました。

  • プロフィール MUJIキャラバン隊
    長谷川浩史・梨紗
    世界一周の旅をした経験をもつ夫婦が、今度は日本一周の旅に出ました。
    www.cool-boom.jp
    kurashisa.co.jp

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