MUJIキャラバン

未来へ向かう、大槌復興刺し子プロジェクト

2014年10月29日

毎週、火曜日と水曜日になると、
岩手県大槌町(おおつちちょう)のとある民家に女性たちが集まってきます。

「刺し子会」と呼ばれるその日、
女性たちは自身が手掛けた刺し子の商品を持ち込みます。

刺し子とは、手芸の一種で、布地に糸で模様を刺繍して縫いこむこと。

震災後の避難所では、女性たちの仕事があまりなく、
やることがない状況でした。

そんななか、東京から来ていたボランティアが主となり、
「針と糸さえあればできる刺し子をやろう」と、
2011年6月から刺し子の制作がスタート。

「大槌復興刺し子プロジェクト」と名付けられたこの活動は、
現在も継続しており、これまでに累計180名、
20~80代の刺し子(作り手)さんが関わってきました。

2012年からプロジェクトに参加している金崎美枝子さんは、
もともと洋裁学校出身。

「刺し子自体は初めてだったけど、自分の服や子どもの服は
昔から自分で作っているんですよ。
刺し子は細かい部分が難しいけど、おかげさまで助かっています」

と話してくれました。

毎週恒例となった刺し子会は、刺し子さんたちの交流の場でもあり、
放課後にスタッフのお手伝いをしてくれている、刺し子さんのお子さんの姿も。

なんと勉強よりも刺し子のお手伝いの方が楽しい、とか!

女性たちが手掛けた大槌刺し子は、
ネットショップやイベントなどで実際に販売され、
女性たちの生活再建の促進に一役買っています。

そんな大槌刺し子をよく見てみると、
その多くに「かもめ」がデザインされていることに気付きます。

かもめは大槌町の鳥で、日常のくらしに取り入れやすいようにと、
一般的な刺し子に多い伝統柄だけでなく、少しポップなデザインに仕上げているそう。

また、限られた人だけでなく、より多くの刺し子さんに関わってもらいたいという想いと、
幅広い層の人に手に取ってもらいやすいように、
価格を抑える意味でも、刺し子の分量を調整しているといいます。

現在、プロジェクトの運営は、NPO法人テラ・ルネッサンスが行っていますが、
運営スタッフには、元刺し子の女性たちもいます。

「外の人が大槌に来て仕事を作ってくれているのに、
地元の私たちがやらないわけにはいかないですよね。
刺し子作業のほかに、アイロンがけだけでも手伝えたらって、手を挙げました」

1年前からスタッフとして働く佐々木加奈子さんは、そう話します。

この仕事をするようになって、
パソコン作業を初めて学んだという加奈子さんですが、
今では在庫管理を任されるなど、大活躍の様子。

また、別のスタッフも刺し子をしながら胸の内を語ってくれました。

「中学生の時にミシン針を指に貫通させたことがあって、
それ以来、トラウマで裁縫はやってこなかったんです。
今は自分なりにうまくいったと思えた時が満足。
この機会がなかったら、刺し子の面白さも知らないままでしたよ」

高校卒業後、北上市に出て製造業で働いていた佐々木静江さんは、
震災を機に出身地の大槌町に戻ってきたそう。

居酒屋で働いており、子どもたちとコミュニケーションが取れないことから
昼間の仕事を探していた時に、刺し子の仕事と出会いました。

「工場でも居酒屋でも言われたことをやるだけの仕事でした。
今は自分で考えて仕事をしていて、
仕事のやりがいってこういうことなんだなって、初めて感じています。
年配の方とも話をする機会ができて、
娘のように接してもらえることがうれしいですね」

このように地元の女性たちに根付いてきている、大槌刺し子の仕事。

プロジェクトマネージャーの内野恵美さんは、
今後について次のように語ります。

「今後は復興支援としてではなく、モノの良さで買ってもらえるように、
素材にもこだわり、もっと岩手らしいプロダクトにしていきたいです。
刺し子の可能性は布以外にも展開できて幅広いはず。
まずは、"大槌=刺し子のある町"というブランディングをしていきたいですね」

実は、大槌復興刺し子プロジェクトでは、
無印良品とも共同で商品づくりをしました。

無印の店舗に並んだことで、刺し子さんには、
離れた場所にいる子どもや孫たちから連絡があるなど、反響があったといいます。

女性たちの笑い声と穏やかな時間が流れる刺し子会を後に、
帰り際、内野さんに大槌町の中心地が一望できる場所に
連れていってもらいました。

ふと空を見上げると、太陽に向かって飛んでいく一羽のかもめ。

なんだか大槌町の刺し子プロジェクトを応援しているかのようでした。

  • プロフィール MUJIキャラバン隊
    長谷川浩史・梨紗
    世界一周の旅をした経験をもつ夫婦が、今度は日本一周の旅に出ました。
    www.cool-boom.jp
    kurashisa.co.jp

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