自然界の縮図「盆栽」
日本を代表する文化のひとつ、「盆栽」。
世界でも「BONSAI」として広く親しまれ、
私たちも世界一周中、訪れた欧米では町中に専門店をよく見かけたほどです。
日本貿易振興機構(JETRO)によると、
庭木をあわせた昨年度の輸出額は10年前の約10倍で、過去最高を記録したそう。
小さな鉢の中で育てられた草木には、壮大な自然の景色が表現されており、
芸術品としての評価も高いようです。
平安時代に中国(唐)から日本へ伝わったといわれており、
江戸時代に武士のあいだで高尚な趣味として親しまれ、
今日まで独自の文化として進化してきました。
「細かい日本人の気質に合っていたんだと思いますよ」
そう語るのは、高松市にある清寿園の園主、平松清さん。
その道40年の盆栽師です。
高松市の西部、鬼無(きなし)と国分寺地区は、
松の盆栽の全国シェア約80%を占める一大産地。
平松さんにその理由を尋ねると、
「昔からこの辺には、よお松が埋まっとったんや。
高"松"っていうぐらいやからのぉ」
高松の名称の所以の真偽は分かりませんが、
その歴史はさかのぼること約200年前、この土地の愛好家が
自生する松を栽培し、販売したことに始まります。
農耕地が少なかった香川では、農家の副業として盆栽の栽培が盛んになり、
水はけのよい砂壌土で育った松は、
「根腐れしにくく、傷まない」として定評があるそうです。
この盆栽、素人の私たちは
てっきり松をミニチュアに品種改良したものと思っていたのですが、
自然に自生しているものなんですよね。
もちろんその種は、秋によく見かける 、
松ぼっくり、通称「松かさ」です!
「この形のええやつを拾ってくるんや。それがいい松に育つ」
平松さんは実際、松かさから苗を育てていました。
本来は松かさから種を採取してそれを植えるようなのですが、
こちらはあえてその姿を見せるスタイルのもの。
鉢の中だけに根を張っていく植物は、
その鉢の大きさに応じて、成長するサイズも変わるんだそうです。
「徐々にその姿形を変えていくのが盆栽の魅力」
そう語る平松さんは、時間をかけてじっくりと育てていく盆栽では、
その植物の特性を熟知し、対話していくことが大切だといいます。
時に「針金かけ」などの技法を利用しながら、枝ぶりを整え、
その芸術性を高めていくのが、盆栽師の腕の見せどころ。
このようにして、様々な樹形が生み出されていきます。
こちらは「吹流し」と呼ばれる樹形。
自然界でも一方向からの風や障害物のために生じる樹形で、
幹も枝も一方向になびいています。
続いて、こちらは「根上がり松」とよばれ、
地中で分岐した根元の部分が、風雨にさらされて露出されている状態です。
縁起が良いとされ、贈呈用としても重宝されてきたんだとか。
平松さんは、人が苗から育て上げるものよりも、
ある程度、過酷な自然環境で育ったものの方が、
素晴らしい姿を見せてくれるといいます。
ただ、現在では気候の変化と松くい虫によって、
自然に自生する松は少なくなってきているそう。
「昔は、近くの山にもいい自然の松が育っとった。
でも、今はなかなか見んようになったなぁ」
そう話す平松さんは、盆栽師のことを"植物のドクター"と呼んでいました。
「販売して以上終了って仕事じゃなくって、
病気などで調子の悪くなった盆栽を、立ち直らせることもよくあります。
キチンとメンテナンスしてあげれば松は100年も200年も生きよるから」
実際、高松市内の名勝、栗林公園には、
樹齢200年余といわれる五葉松がありました。
2世紀ものあいだ、高松を見守ってきた松は、
まさに自然と人間の作り上げる芸術そのものでした。
最後に平松さんに、
「鉢から見上げるように盆栽を見てごらん」
と指南いただき、のぞいてみました。
すると、そこにはまるで自分が小さくなって、森の中に迷い込んだような世界が 。
「盆栽はまさに自然界の縮図。
常に姿を変えていく終わりのない世界ですから、飽きがこないし、楽しいですよ」
平松さんはそういいながら、笑顔で微笑みました。
日本が世界へ誇る盆栽。
それは、自然を身近に感じ、対話していくには、
もってこいの代物かもしれません。