鼻緒のはきもの
高松市の観光通りを1本入った路地にある「黒田商店」の扉を開けると、
目に飛び込んできたのが、とってもカラフルな鼻緒たち。
鼻緒はご存じ、下駄や草履の台部につけて足にかけるひも(緒)のこと。
台と鼻緒の組み合わせを変えるだけで、こんなにもはきものの表情は変わってくるんですね!
黒田商店は、廃材であるタイヤを使ったタイヤ底草履の製造・卸し業として、1916年に創業。
戦後、2代目の時には高度経済成長時代で自社の製造では追いつかず、
仕入れメインにシフトします。
そして、現在は3代目の黒田重憲(しげのり)さんの時代で、
オリジナルの鼻緒や、自社開発したはきものを販売するようになりました。
きっかけは、重憲さんの奥様、恵(めぐみ)さんが自分で履いてみた時に
履き心地があまりよくなかったこと。
加えて、あまり好みのものも見当たらず、
それでは「自分たちが履きたいはきものを作ろう」と、
ご夫妻で7年半の歳月をかけて、オリジナルのはきものを開発しました。
それがこの「マイソール下駄」です。
革張りの下駄の中身には特殊なゴム素材が入っていて、
足にふんわりとしたやさしい履き心地を与え、
履けば履くほどその人の足にぴったりな形になってくるのだそう。
接客時にマイソール下駄を愛用中の、スタッフ村川さんは
ずっと立ち仕事をしていても足が全く痛くならないと教えてくれました。
「最近の靴は性能がよすぎて足の筋肉が育たないんです。
下駄は筋肉や骨を治すというより、本来の姿にもっていってくれるんです」
私たちも少しの時間でしたが、試し履きをさせていただくと、
ソールに少し傾斜がついていて、
マイソール下駄で歩くと自然と体重移動が起こり、背筋がピンとなるのが分かりました。
それから、下駄の鼻緒はもちろん好きなものに変えることができます。
鼻緒の生地は、恵さんが世界中から集めてきた布。
着物の古布から、
こんなにポップでキュートなものや、
さらにはアフリカ・マリ共和国の泥染めなんていうものまで!
その種類は約1000点にも及びますが、
幅2センチ、長さ15センチの小さなキャンパスに表現されるデザインは、
同じものがほとんどないといいます。
また、鼻緒の中には、足当たりがいいようにと、
日本のふとん用の上質綿をブレンドして使っているそう。
「鼻緒のはきものの魅力を全国行脚でみなさんにお伝えしようと思って」
電話口でそう話されたのは、恵さん。
黒田さんご夫妻は、「実際にはきものを履くお客様の声を聞きたい」と
12年前から百貨店などに出向いて、好きな鼻緒とはきものの台を選んでもらい、
その場で挿(す)げる「ライブ」(展示販売会)で全国を巡っているのです。
年の半分くらいは全国をかけ回っていて、残念ながら
今回私たちが高松にお邪魔している時に、お2人は千葉県にいらっしゃいました。
代わりにお弟子さんの松木さんに、実際に挿げていただきました。
一般の下駄屋さんでは畳の上で作業をするのが一般的だそうですが、
黒田商店では椅子に座って洋服で作業するスタイルです。
松木さんは実は、数年前にたまたま銀座でライブ中だった黒田ご夫妻の姿を見かけて、
そのパフォーマンスに惚れ込んで、何度も頼んでこの世界に入った人でした。
「下駄ってかっこいいなと思って。
靴の時よりも、下駄の方がどんな服着ようかってわくわくしてくるんですよね!
将来的に、町を歩いている人の多くが下駄を履くようになればいい」
そう話す松木さんの足元はもちろん、下駄。
村川さんも松木さんも、洋服にごくごく自然に下駄を合わされていて、
"下駄=和服用の靴"という概念が見事に覆されました。
これまで勝手に抱いていたモノのイメージというのは、知らないからだけであり、
それをきちんとプロデューサー本人から教えてもらえる場はとても貴重ですね。
鼻緒のはきものの可能性を追求し、
お店を飛び出してその魅力を発信されている黒田さんご夫妻には
以下のライブ会場でお会いできるそうです。
2012年12月5日〜18日 @三越 銀座店新館(M2階)
2012年12月25日〜30日 @伊勢丹 新宿店(6階)
2013年1月3日〜15日 @松屋 銀座店(7階)