MUJIキャラバン

菓子木型と和三盆

2012年12月12日

ものづくりの現場を見て回っていると、最近、
「これを作るのに使われている道具は一体どうやって作られているんだろう…」
そんなことを考えるようになりました。

そして、今回高松市では、私たち日本人の自慢ともいえる
繊細な和菓子づくりを支える「菓子木型」の職人に会いに行ってきました。

「寝て起きて木型を彫って、寝て起きて木型を彫っての繰り返し。
でもレジャーはいらない。木型がレジャーでもあり、ギャンブルでもあり、
木型の仕事がいろんな所へ連れてってくれるからね!」

「人生菓子木型一筋」ときっぱりと言い放ったのがとても印象的であり、
そんな天職に巡り合っている、目の前にいる職人さんを
うらやましくも感じてしまいました。

その方は、木型工房市原を営む、市原吉博(いちはらよしひろ)さん。

菓子木型の卸し業の家に生まれ、付き合いのあった職人さんから基礎を学び、
28歳で自身の工房を設立しました。
菓子木型の職人は、現在全国に数人しか残っていないという貴重な存在です。

作業をする市原さんに質問を投げかけると、返ってきた答えは、
微笑みながら「ワイパーワイパー」。

こちらがキョトンとしていると、

「嫌とは言わない。もし言わなきゃいけない時は笑って"ワイパー"や。これで幸せ」

"ワイパー"とは、左右に動く車のワイパーのことで、
つまり"NO(ノー)"を表しているそうなのです。
なんともユーモアたっぷりの職人さんです!

その後も次々と名言が口から飛び出します。

「NO(ノー)と言えないアーティスト、それが職人」
「"3D"、"でも・だけど・だって"は禁句」
「愛の連鎖は自分から」

市原さんの発する言葉のひとつひとつは
メロディーのようであり、そのまま書いて飾っておきたい作品のようでもあります。

でも、スゴイのはしゃべりだけでなく、もちろん本業の技も!
木に描かれた細かいデザインを、彫刻刀を使って彫っていきます。

1つの作品を作るのに、形や太さの違った、約50本の彫刻刀を使うといいます。
ズラリと整列した彫刻刀たち…

そういえば、この彫刻刀もまた菓子木型を生むための道具ですね。
彫刻刀の持ち手部分は、自分の手に合うように
市原さんご自身で作られるそうです。

上述した通り、NOと言えない、いや、言わない職人である市原さんが
作ってきた菓子木型の数々がショールームに展示してありました。

木型を眺めているだけでも、なんだかわくわくしてきます♪
すると、市原さんが作ったこの木型を実際に使って、
和菓子を作れる場所があるというのです。

市原さんの工房から5軒先の「豆花」です。

ここは市原さんのお嬢様である、上原あゆみさんが3年前に始めた
"和三盆体験ルーム"。

和三盆とは、東かがわ市と徳島の一部で伝統的に生産されているお砂糖のことですが、
これを型押しして作られた落雁(らくがん)のような砂糖菓子(干菓子)の総称としても、
「和三盆」という名が広く知られています。

早速、あゆみさんの指導のもと、和三盆づくりを開始。

薄力粉のようにサラサラな和三盆を、まずは水でしめらせ、ふるいでこしていくと、
ふわりと甘い黒糖のような香りが漂います。
(ピンク色は食紅で色付けたもので、もともとの和三盆の色は白です)

それを木型に入れて、指でギュッと押さえたら、
木型の上板をはずして、そのまま下板をひっくり返したらもう出来上がり!

想像以上に簡単で驚きました。
これなら、小さな子供からお年寄りまで、誰もが楽しめますね。
実際、おばあちゃんとお孫さんや、3世代で体験に来るお客様もいるそうです。

私たちは、今回、2人で8つの型を使って作らせていただきました!
福梅、おたふく、猫&肉球、合格、千鳥、雪の結晶、オリーブにキューブ。

出来立ての和三盆を口に入れると、ふわぁ〜と甘みが口の中いっぱいに広がり、
あっという間にとろけていきました。
なんともおいしく、そして上品なお菓子なのでしょう!

こうして体験してみると、菓子木型だけを見ていた時よりも更に、
ひと味もふた味も違った感動を覚えます。

木型はお菓子のデザインとは左右逆に彫ってあり、
お菓子にした時に浮き出る部分は、より深く彫られているのです。

市原さんが作る木型はほとんど前例がなく、
いつも試行錯誤を繰り返しながら、ひとつを徹底的に作りあげていくそう。

「これよく見てください! ひとつひとつ表情が違うんですよ。
それが手づくりの魅力ですよね」
と、あゆみさん。

実はあゆみさんは、木型そのものにではなく、
実際に木型が使われているシーンを見て、その虜になったんだとか。

「父の仕事のことはほとんど知らなかったんですよ。
それが、数年前に東京でやった、とあるアート展を見に行って、
そこで和菓子職人さんが父の木型を使ってお菓子を作っているのを見て感動して。
それをみんなに知らせたいと思って始めました」

市原さんが菓子木型を作り、あゆみさんがその使い方を伝える…
この親子のタッグでいろいろな場所へ出掛けていっています。
最近では地元の小学生に、和三盆と菓子木型について講演もしているそう。

「職人だって営業していかないといけない時代」

そう話す市原さんが独自に認定する「木型Girls」が、全国に20人ほどいるそう。
その条件とは、「木型もしくは和三盆が大好きなこと」
「木型を10個以上持っていること」「木型を利用してイベントが組めること」。

これまで脇役だった菓子木型という道具は、市原さんとあゆみさん親子によって、
確かにその存在を世の中に知らしめていっています。

  • プロフィール MUJIキャラバン隊
    長谷川浩史・梨紗
    世界一周の旅をした経験をもつ夫婦が、今度は日本一周の旅に出ました。
    www.cool-boom.jp
    kurashisa.co.jp

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