龍門司焼
鹿児島県内には窯元がとても多い印象を受けました。
鹿児島県陶業協同組合のHPに載っているだけでも、59窯元あります。
県内で焼かれる「薩摩焼」は、約400年前、
豊臣秀吉の朝鮮出兵に同行した薩摩藩主・島津義弘公が
陶工を薩摩に連れ帰ったことに始まります。
その後、発展と退廃を繰り返し、今では薩摩焼の系譜として
「苗代川(なえしろがわ)系」「竪野(かたの)系」「龍門司(りゅうもんじ)系」
と分かれているようです。
また、薩摩焼は「白もん」と呼ばれる白薩摩と、
「黒もん」と呼ばれる黒薩摩の2つに大別できます。
白薩摩は乳白色のあたたかみのある生地に、
金、赤、緑、紫、黄などで豪華絢爛な文様を施した気品のある逸品で、
藩主御用達として発展してきました。
幕末のパリ万博にも出品され、その高い芸術性が絶賛されたことをきっかけに
多くの作品が海外に輸出され、「SATSUMA」の名が欧米に知られるようにもなりました。
それに対し、もう一方の黒薩摩は、鉄分含有量が多い土を用いており、
素朴で重厚な面持ちが特徴で、
こちらは、庶民の生活道具として親しまれてきました。
今回は、姶良(あいら)市にある、黒薩摩のひとつ、
「龍門司焼」の窯元を訪ねました。
敷地内に入ると、ズラリと外に並べられた、黒い器たちが
私たちを迎えてくれました。
これらは「黒ヂョカ」と呼ばれる焼酎用の土瓶で、
焼酎大好きな薩摩人に、昔も今も人気のものだそう。
脚がついていて、土間や畑など場所を選ばずに
使えるようになっています。
また、黒ヂョカで温めた焼酎を移して、
宴席などで使われるのが「からから」と呼ばれるもの。
持ちやすい丈夫な首に、注ぎやすくこぼれにくい注ぎ口など、
1日の疲れを癒やす晩酌のお供にふさわしい器です。
龍門司焼は、陶土、釉薬の原料など
すべてを地元でまかなっているそうですが、
なかでも自信を持っているのが「化粧土」だといいます。
有色素地で焼き物を作る際、釉薬の発色を美しくするために、
素地表面に白色の陶土(化粧土)をかけるのです。
もともと赤みの強い陶土の色が、
このようにやさしい白い色合いに変化します。
また、龍門司焼はその独特な装飾が魅力的。
窯に併設されたお店には、目移りしてしまうほど、
たくさんの多種多様な器が並んでいました。
なかでも、白化粧した素地に飴釉と緑釉を掛け流す
「三彩流し」は龍門司焼の代表的な技法で、
美しく明るいやわらかな印象を与えてくれます。
さらに、釉薬がサメ皮のように細かく粒立っている「鮫肌」や
立体的に浮き上がったうろこ状の文様が特徴の「蛇蝎(だかつ)」は
とてもインパクトがあり、目を惹きます。
各地で出会う焼き物。
その地で採れる土を使って、昔から伝わる手法で作られる焼き物は、
自然界にある土のホッとする温かみと手のぬくもりが感じられる、
世界にひとつだけの器でした。