黒酢
肉用若鶏飼育数1位、豚飼育頭数1位、肉用牛飼育頭数2位の
畜産大国、鹿児島県。
(平成21年度総務省調査)
鹿児島に入った途端、引き寄せられるように、
焼肉屋さんに入っている私たちがいました。
訪れた先は、霧島温泉郷にある「焼肉厨房わきもと」さん。
純粋黒豚をはじめ、地元産の新鮮な具材を提供するお店です。
地元産のサツマイモをたっぷりと与えられたかごしま黒豚は、
数ある黒豚ブランドの中でも別格の扱いで、
過去には食肉市場で牛肉並みにランク付けされたこともあるほど。
確かに、その甘み、旨み、弾力、どれをとってもおいしい。
何より、白い脂身の部分が全くといっていいほど
脂っぽさを感じないことに驚かされました。
それには、黒豚そのもののおいしさもさることながら、
「焼肉厨房わきもと」さんならではの、独特の工夫がありました。
つけだれが黒酢タレだったのです。
黒酢の酸味をうまくいかしたタレの味わいは、
さっぱりとしながらも肉の味を引き立ててくれる仕立て。
黒酢といえば、健康食品として7年ほど前に一躍脚光を浴びましたが、
元をたどれば、そのルーツは鹿児島県にありました。
そんな「焼肉厨房わきもと」さんも使っている、
黒酢の生産者を紹介して頂きました
向かった先は、鹿児島県福山町の「伊達醸造」さん。
福山町で黒酢づくりが始まった1820年創業の老舗です。
そこには、目を疑うような光景が広がっていました。
見渡す限りの、壺、壺、壺 !
これ、実は福山町ではよく目にすることができる「壺畑」の光景で、
福山町では昔ながらの製法に則って、
苗代川焼という薩摩焼の一種である「アマン壺」を使用し、
発酵から熟成までを行っているのです。
このアマン壺の大きさは約55ℓという、決して大きくはないサイズ。
もっと大きな壺を使えば、一度に大量の酢が造れるのでは?
と、ふと素人じみた考えが浮かぶと、
そこには福山町の酢づくりならではの理由が隠されていました。
「福山では南国らしい日中の日射しと西陽によって、
黒い小さな壺が温められるんです。
夜は、錦江湾から流れてくる冷たい海風によって冷まし、
この自然環境が、酢づくりには適しているんですね。
大きな壺だと、温度が行き渡るのに時間がかかるので、うまくいきません」
伊達醸造の代表社員、伊達さんがそう教えてくれました。
訪れた時刻は夕暮れ近かったのですが、
確かにそこは西陽の降り注ぐ絶妙な環境でした。
お酢づくりというと蔵の中でというイメージがありましたが、
屋外で屋根もない、完全に自然の環境下でのお酢づくりとは驚きました。
そのため、暑すぎても寒すぎてもダメなので、
仕込みの時期は9月末~の秋と、3~4月の春と決まっているんだそうです。
使う素材も、米麹と水のみ。
アルコールなどを加え、熟成を早めることなく、
自然の力を使って、ゆっくりじっくりと発酵・熟成させます。
特別に壺の中を見せていただくと、中に浮いていたのは麹菌。
振り麹(最後に麹菌を水面に散らすこと)をすることによって
空気に触れさせることで、酢酸発酵を促すんだそうです。
こうして発酵に約4~5カ月、熟成に最低6カ月、
1~3年もの期間をかけて、ようやく福山町の酢は完成するんです。
写真左は「黒酢」、右は「米酢」と呼ばれ、
黒酢には玄米が利用されています。
もともと、「黒酢」とは福山町で上記の製法で作られたお酢を指していましたが、
2003年の黒酢に関するJAS法制定後、
玄米を使用し、発酵および熟成によって褐色に着色したものであれば、
24~48時間で造られるものも、黒酢と呼ばれるようになりました。
ただ、福山町の酢は、米を使った酢においても、
アミノ酸量は玄米を使ったものと同程度に高いようです。
「壺によって、発酵や熟成のスピードが変わるので、
一つひとつの壺に手をかけてあげなければなりません。
大変ですが、これが福山町の酢づくりなので」
福山町のおいしいお酢づくりの秘訣には、
先人の知恵を脈々と守り続ける職人たちの姿がありました。