MUJIキャラバン

地デザイナー

2012年12月24日

四万十川の支流にある、四万十市西土佐地区に住む、
とってもワイルドな"地(じ)デザイナー"にお会いしてきました。

その人は、サコダデザインの迫田司さん。
現在、地元でデザインの仕事をする傍ら、日本中を飛び回り、
地元に住み地域のデザインをする"地デザイナー"を増やす活動もされています。

私たちが高知県にお邪魔している1週間のうち、
奇跡的にスケジュールが空いている時間があり、
日が暮れてからにもかかわらず、訪問を快諾してくださいました。

教えていただいた住所に行ってみると…
せっせと炭火焼きの準備をする迫田さんの姿が。

名刺交換もそこそこに、
「とりあえず、そこにある温かいのでも食べといてよ。全部地のものだから。
BBQの鉄則は、最初に何かつまめるものを用意しておくことらしいよ」
といわれ、まずはお鍋をいただくことになりました。

ご自宅のすぐ横で、事務所のあるこの"木賃ハウス"は
迫田さん一家が自宅を建てる前に住んでいた場所だそう。
電気やガスはなるべく使わない、
炭や薪を利用した昔ながらの暮らしがそこにありました。

「僕ね、10年間先に老後をやったんですよ」

迫田さんは、社会人2年目にカヌーをしに訪れた四万十川に惚れ込み、
20年前にこの地に移住してきました。

カヌーのインストラクターとして働くも、それだけでは足らず、
田んぼを借りて自分の食べるお米を作ったり、道具を作ったりと、
手づくりの暮らしをしていたと笑って話します。

移住10年目に家を建て、地域の人との関係が強固になってくると、
もともと印刷会社でディレクターをしていた迫田さんに
近所の人から様々な相談や依頼が来るようになりました。

村役場からの依頼で、迫田さんがデザインした、
四万十川の支流で作られたお米の袋は、
どんなに技術が進んでも炊飯器の目盛りは「合」や「升」であることから
「升(ます)」をイメージした直方体の自立型に。

「付加価値をつけるのではなく、潜在価値を見つけただけ」

そう話す迫田さんが、潜在価値に気づけたのは、
その土地で築いたそれまでの生活があったからに違いありません。

迫田さんはデザインについて、こう定義します。

「デザインとはコミュニケーションのこと。
関係性をハッピーにする解決法がデザイン」

例えば、迫田さんが手掛けたある牛乳パックのデザインが
一つの町を変えることになったといいます。

高知県中西部の佐川町にある、唯一の牛乳屋さんの
パッケージデザインを考えていた時のこと。

「地元の小学校でもその牛乳は出されていて、
地域の人はみんなその牛乳を飲んで育っているんですよね。
それを聞いた時に"それって地乳(ぢちち)やん"って」

地酒や地鶏ならぬ地乳、そのパッケージには
これまでにありそうでなかった白黒のデザインを採用。
白黒パッケージなら印刷は1色でコストダウンになる、
というところまで考えて作られていました。

なかなかすらりといえない名を与えられたローカルミルク"ぢちち"ですが、
子どもたちも気に入ってその名を連呼するようになり、
いつしか地域で勝手に地乳を使ったアイスやパンなどの加工品が生まれ、
「地乳プロジェクト」が推進されるようにまでなったんだとか。

迫田さんの活動領域は、パッケージデザインだけにとどまらず、
地域そのもののデザインにまで発展しています。

自身の住む西土佐地区は、愛媛県松野町との県境にあり、
買い物はすべて愛媛のスーパーに行くなど、生活圏はほぼ愛媛県です。
しかし、これまで歴史の中でも県境の存在は大きく、
特産品は高知県産、愛媛県産に分けられていました。

そこで考えたのが、
「県境がNICE!!(ないっす)プロジェクト」

お互いの地域食材で商品開発を進め、
"県境産"という新たな産地を作り出すことで、経済の活性化を目指します。

次々と地域に新たな仕掛けを投じていく迫田さん。

「デザイナーだって、魚屋や肉屋と同じで地域に必要な職業だと思うんだよね。
デザインもその土地生まれであるべきでしょ」

数年後には自分自身はデザイナーを卒業して、
"地デザイナー"を支える立場になりたいと語ってくれました。

その土地のことを最もよく知る"地デザイナー"が地域をデザインし、
その土地に住む人たちが自分の町を誇りに思うようになる。

これこそが、真の地産地消なのではないでしょうか。

  • プロフィール MUJIキャラバン隊
    長谷川浩史・梨紗
    世界一周の旅をした経験をもつ夫婦が、今度は日本一周の旅に出ました。
    www.cool-boom.jp
    kurashisa.co.jp

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