MUJIキャラバン

四万十ドラマ

2012年12月25日

この秋放映のドラマの舞台にもなっていた四万十川。

日本三大清流にも数えられる一級河川は、
昔から川漁で生計を立てている人が多いほど、
天然ウナギから鮎、テナガエビ、青海苔などの水産物に恵まれています。

その中流域に位置する、四万十町十和村(とおわむら)という
信号もコンビニもない人口約3000人の小さな村に、
一つの道の駅がありました。

「道の駅 四万十とおわ」

高知市から車で約2時間強かかるほど、
決して利便性が良いとはいえない立地にもかかわらず、
オープン5年目で来場者数約80万人に達する見込みだそうです。

旅路の途中、よく評判を耳にした私たちは、
運営者にぜひお話を伺いたいと、(株)四万十ドラマの代表取締役社長、
畦地履正(あぜちりしょう)さんの元を訪ねました。

幸運なことに、その日は四万十ドラマが主催する
「いなかビジネス教えちゃる」というセミナーの開催当日で、
全国各地から畦地さんの取り組みを学ぼうとする方たちが集まり、
どさくさに紛れて私たちも参加させてもらうことに。

「これまでの道のり、失敗も多かった。
私は生産者を裏切るような真似もしてしまった」

実績やサクセスストーリーばかりが伝わりがちななか、
畦地さんは失敗談を交えながら、その歩みを語ってくれました。

四万十ドラマが産声をあげたのは、今から18年前の1994年。
旧北幡3町村(西土佐村、十和村、大正町)の出資で設立されました。

もともと農協に勤めていた畦地さんでしたが、退職し、
四万十ドラマの立ち上げから参加。
常勤職員は畦地さんたった一人からのスタートでした。

当時はひたすら"地域には何かある"と信じて、
地元の人に触れ、地域のことを調べていったそうです。

徐々に地元の産品を展開し始めるようになり、
やがて有機野菜も取り扱うようになりました。

そんな折、大きな過ちを犯してしまったと、畦地さんは振り返ります。

「有機野菜の出荷に穴があきそうになったため、同じ四万十産の野菜だからと、
他の生産者の野菜を混ぜて売ってしまったのです」

これが発覚し、有機農家からは1年ほど口をきいてもらえなくなりました。

この時のことを猛省された畦地さんは、
「あるものはある。ないものはない」
と何事にも正直に、誠実に対応するようになり、
「ないものは作らなくてはならない」
と一次産業の大切さを痛感するようになったといいます。

ここに畦地さんの礎を見るように思います。

その後、四万十ドラマのコンセプトを、

ローカル: 四万十川を共有財産に足元の豊かさ・生き方を考える
ローテク:地元の素材や技術、知恵を活かした第1~1.5次産業にこだわる
ローインパクト:四万十川に負担をかけずに活用する仕組みを作ること

と置き、様々な商品開発を進めていくなかで、
一次産業に対しても大きくかかわりだすのです。

その一つの事例が、こちら。

四万十の栗=地栗(ジグリ)を使った「渋皮煮」です。

かつて栗の有数の産地として知られていた旧十和村も、
安い海外産や高齢化の影響で、徐々に山は荒れていきました。

それを地元にもともとあった渋皮煮に加工して出すことによって、
原料としての栗に付加価値をつけ、経済を生み出していくことに成功。

ヒット商品となった渋皮煮、今度は材料の栗が不足し、
今では毎年5000本の栗の木を植えて、山の再生にまでつなげています。

また、会計時には環境に優しいこんな取り組みも。

レジ袋には古紙で作られたバッグが使われているんです。

これまでも四万十ドラマでは
「新聞バッグ」のワークショップなどを開催してきており、
全国に200人以上ものインストラクターを輩出してきています。

地域や国によってその土地らしさが生まれ、
思わず読み込んでしまう新聞を使うというアイデアも斬新ですよね。
「新聞バッグ」の制作キットも販売していました。

このように開発された商品は100種類を数え、
町の経済を活気づけるとともに、四万十の景観を守っています。

今では、売れない商品はないというほど。
ここまで展開できた秘訣は何なのでしょう?

研修の後半、訪れた有機農家での一コマに、
その理由を垣間見たような気がします。

畦地さんは、加工品を作るために生産者と作物を取引するわけですが、
生産者の販路開拓にもひと役買っていました。
青果の取引の際に、消費者や小売担当者と生産者を直接つないでいるのです。

畦地さんはこう話します。

「地域ビジネスに必要なのは、
実際にモノを作る"労働者"、労働者が働きやすい環境を作る"管理者"、
そして、新しい産業を作り出す"起業家"。
前にも後にも"人"なんです」

畦地さんとともに歩んでこられた地域の方の言葉が
今も脳裏に焼き付いています。

「畦地さんとは運命共同体ですから」

四万十ドラマの成功も、
すべては畦地さんが、その地の生産者たちとともに考え、ともに歩み、
絶対的な信頼関係を築いてきたからこそだと思いました。

ドラマは人が作るもの。地域を生かすも殺すも"人"次第。
四万十ドラマにそう教わった気がします。

  • プロフィール MUJIキャラバン隊
    長谷川浩史・梨紗
    世界一周の旅をした経験をもつ夫婦が、今度は日本一周の旅に出ました。
    www.cool-boom.jp
    kurashisa.co.jp

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