つまみになる塩
広大な太平洋に面した高知県黒潮町(くろしおちょう)。
この町には佐賀地区を中心に、
実に5軒もの工房が塩づくりに励んでいます。
温暖で日射しの強い太平洋性の気候で、
四万十川を源流とする伊予喜(いよき)川が山のミネラルを海へと運びこむうえ、
地元住民によって美しい海が保全されてきたことから、
日本でも有数の塩づくりに適した環境なのです。
そんな黒潮町で、最初に塩づくりを始めた
「土佐のあまみ屋」を訪ねました。
晴天に恵まれたその日は、
12月中旬にもかかわらず長袖では汗ばむほどで、
自然製塩にはもってこいの気候であることを実感しました。
「人間はもともと、海から生まれてきたといわれているんです。
羊水と海水の成分は似ていますから。
塩は人間にとってとても大切な要素なんですよ」
そう話すのは、土佐のあまみ屋の小島(おじま)正明さん。
塩づくりに対する熱い想いを語っていただきました。
「そんな大切なものにもかかわらず、日本に流通している塩の多くは化学製塩、
つまり塩化ナトリウム99.9%のものでした。
いい塩を作り流通させることで、本物を知ってもらいたいんです」
小島さんがこの地で塩づくりを始めたのは昭和56年のこと。
当時、日本は塩の専売法が敷かれており、
タバコなどと同様に、特定業者にしか製塩、販売が認められていませんでした。
電気化学的に海水から塩化ナトリウムだけを取り出して作られる塩は、
味の尖った、刺激の強いものとなり、
過剰摂取によっては現代病を引き起こす要因ともいわれました。
当時より原発をはじめとした化学による汚染を懸念していた小島さんは、
伊豆大島で研究所として唯一、認められていた自然製塩所で研修を受け、
故郷、高知で製塩所を立ち上げるに至ります。
「海からできる塩は、もちろん作り方によりますが、
塩化ナトリウムは80%ほど。残りはミネラル分です」
その作り方は「流化式製塩法」といって、
これまでのキャラバンで見てきた「揚げ浜式製塩法」や
「入り浜式製塩法」をさらに進化させたものでした。
海から汲み上げた海水を、
ネットの張り巡らされた木組みのタワーに上から噴霧し、
海水がネットを伝って落ちていく間に、
太陽と風の力で水分が蒸発し、塩分が凝縮されていきます。
これを繰り返すことで作られる塩分濃度の高い水を
隣接するビニールハウスに移し、天日干し。
こうして太陽の力が、塩の結晶を生みだし、
残った水分はにがりとなるのです。
かつては、釜焚きによる塩づくりも行っていたという小島さんでしたが、
微量のミネラル分を失わないために、15年ほど前に、
ゆっくりと結晶化させる天日干しに切り替えられました。
「塩は生き物だから、全く同じものは作れないんですよ。
そんななか、私の求める"いい塩"とは、ふわっとした塩。
つまみになる塩を目指しています」
結晶が大きく仕上がる天日塩ですが、
小島さんのつくる塩は尖らず、甘みがふんわりと口いっぱいに広がります。
マイルドな味で、おっしゃる通り、お酒のつまみとして舐めたいと思えるほど。
その味の通り「あまみ」と名付けられています。
最後に、大切にしていることを伺うと、
こう応えてくれた小島さん。
「正しいか正しくないかでモノゴトを選ぶんじゃなく、
楽しいか楽しくないかで選択をしていきたいですね」
ただ、ひたすら正しい塩づくりを追求しているのかと思いきや、
それは意外な回答でした。
ほんのり甘くて、つまみになる塩は、
小島さんが楽しみながら作った味でした。