里山の小規模循環
ある日、我が家に一つの贈り物が届きました。
箱を開けると、そこには真空パック化されたお米が。
洗練されながらも、気張らないパッケージは、
1合、2合、3合と分量別に分けられ、
人数や用途に合わせた使い手への配慮を感じました。
さらに、真空パックだから米の鮮度が長期に保たれるので、
もしもの時への備えにも、もってこいです。
きっとデザイナーとのコラボレーション商品だろう、と思ったら、
生産者の所在地は、熊本市内から1時間ほど北に向かった山鹿市。
「MOYAIの米~里山再生プロジェクト~」
と名付けられたそのお米は、熊本の里山で作られたものでした。
以来、このお米のことが気になっていた私たち。
熊本に立ち寄った際、念願かなって生産者のもとを訪ねることができました。
「お米でもアイスクリームでも、私のやりたいことは一緒なんです。
中山間地で少量しか作られない農産物を、
加工して付加価値をつけて販売すること。
この小規模循環型のビジネスモデルこそが、
日本の里山を再生していく術だと思っているんです」
そう話すのは、(株)パストラルの代表取締役、市原幸夫さん。
お話にあるように、本業はなんとアイスクリーム屋さんで、
平成9年より、小規模多品種の農産物を用いたアイスを作り続けています。
「イタリアではいろんな味のジェラートがありますでしょ。
日本でも、ご当地アイスが産業になりうるって思ったんです」
市原さんの狙い通り、
各地の道の駅で見ないことはないほど、ご当地アイスは一般的になり、
市原さんも年間150種類を手掛けるほどです。
一方、ふと地元を見返してみた時、
広がる休耕田に、危惧を覚えたという市原さん。
「地元には長年、無農薬の合鴨農法で米作りに取り組む
農家さんたちの姿がありました。
ただ、素晴らしい取り組みなのに、農家には後継ぎがいない。
状況を打破するためには、循環化する農業にしなくちゃいけない」
こうして市原さんは、地元の66~83歳の5軒の農家さんと、
息子夫婦たちとともに、「あいがもん倶楽部」を結成。
それまで、他産地の米と混ぜられていたり、自家消費されたりしていた合鴨農法米を、
「MOYAIの米」としてデザインし直し、世に発信していっているのです。
「都心には人がいます。
里山にはその人の心と体を育んだり、癒やしてくれたりするものがたくさんあります。
私は、都心と里山のパートナーシップを手掛けていきたい」
そう話す市原さんは、お米のパッケージにQRコードを付与し、
米作りの様子を動画で伝える仕掛けも組み込んでいました。
そして、米作りに興味をもってもらった方には、
実際に米作りに参加してもらえるグリーンツーリズムも。
栽培に使った合鴨も食肉として出荷し、本格的に特産化を目指します。
「MOYAIの米」には、里山の現状を知ってもらい、
里山が今後も日本の食糧供給基地であり続けられるようにとの
願いが託されていました。
ちなみに"MOYAI"とは共同で一つのことをするという意味。
市原さんは、地域の共同体は、「家族」がベースにあると話します。
「100年、200年続けていくためには、土壌にあるのは家族経営。
企業的に大規模な生産効率を追求するのではなく、
家族単位で、小規模循環を追求することが、
里山の豊かで幸せな暮らしの再生につながると思っています」
現に市原さんの傍らには、
アイスクリームの企画・販売に携わる長男夫婦と、
新規就農した次男夫婦の姿がありました。
一度は上京した息子さんたちが帰郷したのも、
父、幸夫さんの信念に共感を覚えたからといいます。
こうして親子が自然な形で仕事を営む姿こそが、
里山の持続可能な暮らしを実現していく秘訣とも感じました。
市原さんのいう"小規模循環型"のビジネスが
各地で行われるようになれば、
きっと日本の未来は明るいのではないでしょうか。
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