FUNADE~結日丸~
石巻市街の中心に、一際目をひく一軒のお店があります。
「FUNADE studio」という名のそのお店に一歩足を踏み入れると、
そこには眩いばかりの世界が広がっていました。
「FUNADE studio」は、仲間から"テツ兄"と慕われる、
田中鉄太郎さんが手掛けるオリジナルブランドのお店。
京都で日本をテーマにした、グラフィックデザインの服づくりをしていた田中さんは、
震災後、居ても立ってもいられずに、石巻にボランティアに来ました。
瓦礫の処理が終わった頃、自然とものづくりを活かした支援をしたい
と思うようになったといいます。
「復興に甘えずに、ずっと続けていくためには、
この地にあるものを活かさないといけないと思って」
そう話す田中さんが素材を探すなかで出会ったのが、1枚の布でした。
泥まみれになりながらも存在感を放っていたのは、
色とりどりに美しく染め上げられた「大漁旗(たいりょうばた)」だったのです。
大漁旗とは、漁に出た漁船が大漁で帰港する際に船上に掲げる旗のこと。
また、新しい船の進水式で、ゆかりのある人たちから豊漁と海上安全を祈って
船主に贈られる「祝い旗」でもあります。
かつては大漁旗を揚げる様子をよく見ることができたそうですが、
昨今では進水式以外にはあまり使われず、
それでも捨てることはできずにしまっておく人が多いとか。
大漁旗を求めて沿岸部を走った田中さんは、
2日間で約300枚の大漁旗を漁師さんたちから譲り受けました。
「その時点でこっちに居続けることが決定しましたよね。
2011年の9月後半には京都の家を引き払って、
正式に石巻でものづくりを始めました」
大漁旗という伝統ある素材をいかに日常に取り入れるか。
田中さんは試行錯誤をくり返しながら、
大漁旗を使ったオリジナルブランド「FUNADE~結日丸~」を立ち上げました。
そして、自分だけでものづくりを進めるのではなく、
知り合った浜のお母さんたちに作業をお願いしながら、一緒に作り上げています。
「働くことは経済的にも精神的にも自立につながる大切なことです。
浜のお母さんたちはいつも手を動かしていて、
台風なんかで働けないことが耐えられない。
仕事をお願いすることで、お母さんたちは生き生きしています」
生地そのものに存在感がある大漁旗。
2つとして同じものがない貴重な素材を余すことなく使いたいと、
田中さんたちはこんな商品も企画していました。
布を裂いてブレスレットの材料を作る際に出る、
残糸を使ったピアスです。
「大漁旗は東北に限らず、日本全国にあるもの。
今後もこの伝統ある大漁旗という素材を
カタチを変えて色々なモノにしていきたいですね」
一時的な支援のためのものづくりではなく、
初めから未来を見据えてきた、田中さんのものづくり。
その地にある素材を活かして、
現代のくらしのなかに取り入れやすいプロダクトに変換するというプロセスは、
どこの土地においても参考になるものづくりではないでしょうか。
そのブランド名の通り、
田中船長が舵をとる「FUNADE~結日丸~」が、
石巻から全国と出帆していました。