石巻工房
「電気もガスも水道も止まって、何もなくなったとき、
生き延びていくために、どのように行動しますか?」
そう問いかけるのは、石巻工房の千葉隆博(ちばたかひろ)工房長です。
「ある居酒屋は、店主自らが店を直して、いち早く営業を再開していたんです。
結局、DIYできた人が一番、復興が早かったんですよね」
東日本大震災によって、未曽有の被害を受けた石巻市。
石巻工房は、そんな石巻市の商店街で、
東京のデザイナーを中心とした有志から提供された補修道具や木材を基に、
復旧・復興のための誰もが自由に使える公共的な施設としてスタートしました。
「当時、"待ち得"って言葉がありましてね。
待っていれば色々もらえるので、被災者は待ちの姿勢になっていたんです。
ただ、そうなると人間ダメになっていくんですよ」
そう当時の様子を振り返りながら、
いつまでも支援に頼りきりの状況に、危惧を覚えていたと話す千葉さん。
そんななか、当初から支援に入ってくれていたアメリカの家具メーカー、
ハーマン・ミラー社による支援の姿勢に、ヒントを得たといいます。
「魚を与えるんじゃなく、釣り方を教える」
その姿勢こそが自立を促す、と考えた石巻工房では、
当時、外でビールケースに座って話していた仮設住宅で、
ベンチづくりのワークショップを催します。
材は、レッドシダー協会より提供してもらった、カナダ産のレッドシダー材。
よくウッドデッキなどに用いられる木材です。
「レッドシダーは、耐久性が高く腐りにくい。
被災直後の現場では、外で使うケースが多く、
必然的に強度と耐久性のある材が求められたんです」
こうして、地元の人たちと需要や技法を検証しながら
生み出された数々の製品。
これらが、現在の石巻工房の製品のベースとなりました。
コンセプトは「スモール・アウトドア」、
シンプルで簡単ながら、頑丈で機能的なデザインです。
「外でも使い倒せる家具は、意外とありそうでなかった」
と千葉さんが話すように、
石巻工房の家具はコンパクトで、簡単に運べるように軽い。
仮設住宅では、自分たちで作ったベンチに座りながら、
街の未来を思い思いに語り合ったそうです。
また、「"考えるスキを残しておくモノづくり"も大切」と
千葉さんは語ります。
「すぐ使えるものばかりだと、ユーザーは何も考えなくなってしまう。
石巻に自衛隊が到着したのは震災から4日後でした。
自ら考えて行動しないと、サバイバルできないんです」
石巻工房で用いている木材が無垢なのも、
自分で塗装するもよし、傷ついたら削るもよしという意味からでした。
石巻工房のロゴマークが、途中で囲いが切れているのも、
そんな想いを象徴しているかのようです。
「これまで石巻は他の地方都市同様に、閉塞感に包まれた場所だったんです。
これからの石巻は開かれた場所でありたい。
そんなメッセージも込め、右上の枠に穴を開けています」
実際、石巻工房には、県内外からの雇用を受け入れ、
常時5人のスタッフが働いています。
最近、引っ越したばかりという工房は、以前の5倍の広さになり、
今後も「市民のDIY工房」としての機能を持ちつつ、
石巻に来たら、必ず立ち寄りたくなる場所にしたいと話します。
「被災地に来てもらったとき、(被災者のために)何かしてあげようというのではなく、
もし自分自身が被災したらどうするかをシミュレーションしてもらえる。
そんな場所として、石巻工房は機能していけたらと思っています」
自らの経験と教訓から生まれた石巻工房。
地元の人の自立のための工房としてはもとより、
地域を活性化する起爆剤として、歩み始めています。