MUJIキャラバン

寄磯の味をよりいっそうおいしく

2014年10月15日

「よかったら食べてみてください」

お会いして早々、出していただいたワカメを口にすると、
そのシャキシャキとした食感に驚かされました。

「噛みごたえのある食感!おいしいですね!」

思わず感嘆の声を上げてしまいましたが、それもそのはず。

「市場の多くのワカメは、増量のために塩と水を入れて出荷されているんですよ。
だからどうしても、ふやけてしまっている」

マルキ遠藤商店の代表で、漁師の遠藤仁志さんが、
日焼けした笑顔で、そう教えてくれました。

遠藤さんの手掛けるワカメは伝統のしぼり製法。
できるだけワカメの色合い、食感、味わいを保つために
適量の水と塩をまぶす、実直なワカメづくりをされています。

三陸海岸の南端に位置する牡鹿(おしか)半島、
その東岸に位置する寄磯(よりいそ)浜に、マルキ遠藤商店はあります。

「この辺りは、陸の孤島なんて呼ばれているんですよ。
石巻で知らない人もいるぐらいですから」

遠藤仁志さんの奥様で、マルキ遠藤商店の総務統括部長の
遠藤由紀さんは、寄磯生まれの寄磯育ち。
仁志さんは、婿養子で迎えられた3代目。

黒潮と親潮がぶつかり、海流の激しい三陸は、
海藻類全般をはじめ、アワビやウニ、ホタテなど貝類の産地としても有名です。

なかでも三陸の名物としても知られているホヤは、
キムチにもよく合うことから、お隣韓国にも多く輸出されていたそうです。

「水が冷たくて波が荒いから、海藻も貝も必死に生きようとする。
それで身が引き締まるじゃないでしょうか」

仁志さんは、おいしさの秘訣をそう語ります。

しかし、そんな漁が復活できたのも、
ホタテは昨年、ホヤは今年の話。

「ここにも大きな津波が来ましてね。
今ここにいられるのも、ご先祖様が救ってくださったからだと思っています」

仁志さんと由紀さんは、壮絶な3.11の日のことを
ゆっくりと話し始めてくれました。

ヒジキの作業日だったその日。

たまたま従業員の一人が、
お彼岸が近いのでお墓の掃除をしたい、と言い出したことをきっかけに、
いつもより早めに作業を解散した後、東日本大震災が寄磯を襲いました。

大きな揺れから間もなくして、
「津波が来る」というアナウンスが入ります。

「早く避難しないと!」

急かす由紀さんに対し、
大切な資料などを避難させなくてはと、事務所内の整理を始めた仁志さん。

かつて襲った三陸地震の時の津波は20㎝ほどだったという記憶が
仁志さんの頭をよぎったそうなのです。

たまたま工場に居合わせた息子の身を守るため、
由紀さんは、先に息子を連れて小学校に避難します。

そして、その間に津波は工場を襲いました。
仁志さんは飲まれ、流されていきました。

津波に一面飲まれていく様子を、避難所から見ていた由紀さんは、
仁志さんの最悪の事態も覚悟したといいます。

「その時に、たまたま流れてきた船に乗っかることができたんです。
波が落ち着いた後、なんとか陸まで泳ぎ切りました」

そう話す仁志さんはその後、なんとか避難所までたどり着き、
由紀さんたちと奇跡の再会を果たしたといいます。

早めに解散していた工場の従業員も全員、無事でした。

以来、「神様に助けられた命、寄磯のために尽くそう」
と、決意された遠藤さんご家族。

仁志さんは、寄磯の復興の窓口として精力的に活動し、
震災から1年後には、新工場で操業の再開を実現します。

石巻でも1、2を争うほど、早い復興だったそうです。

同じ場所での工場の再建にためらいはなかったのかと聞くと、

「ここは自分たちの土地。
海のモノを扱うのに、海のそばにいるのは当たり前」

と、まったく迷いはなかったと話してくれました。

そんな父親の後ろ姿に、娘さんも心動かされます。

「ちまたでは漁業に興味を持っている人は皆無でした。
自分が関わることで、なんとか後につないでいければと思ったんです」

そう話す次女の遠藤裕子さんは、
震災時に通っていた一般大学を卒業後、美大への進学を決めました。

「デザインの力で、商品の魅力のみならず、
食べ方や地域の魅力まで発信していきたかったんです。
親が被災しているのに美大に進学したいって、
頭おかしくなったのか!って言われましたけどね(笑)」

裕子さんは、美大内でプロジェクトチームを発足し、
寄磯の海産物を使った、商品開発に乗り出します。

必要経費は、みやぎ産業振興機構が公募する
「宮城・仙台富県チャレンジ応援基金事業」から助成金を獲得。

現地に通うなかで、
チームメンバーからも寄磯の香りに感嘆の声が聞かれたことに、
裕子さんや地元は自信を深めていったといいます。

「それまで自分の地域の仕事や商品に、
自信を持っていない人が多かったんですよね。
漁師や水産業のイメージを変えていきたい」

こうして裕子さんたちによって生み出された、新しい商品がこちら。

寄磯を代表する5つの海藻が味わえる商品です。

光で中身が傷まないよう、箱で包まれ、
都会生活者でも気軽に食べられるよう、
2人前の分量で梱包されました。

その土地での食べ方をまとめたレシピも同梱。

パッケージには、
「寄磯をよりいっそうおいしく」
とシャレの利いたコピーも添えられました。

「少量でパッケージしていく方が、大変なんですけどね。
娘の想いに応えるために、がんばっています」

遠藤ご夫妻は、これまた娘さんがデザインされたロゴマークを手に、
満面の笑みで、そう話してくれました。

震災をきっかけに、それぞれが役割を果たしながら
動き始めた、マルキ遠藤商店。

寄磯の味が、よりいっそうおいしく感じられたのも、
彼らの想いが深まった証なのかもしれません。

[関連サイト]マルキ遠藤商店「YORIISO」リンク
よりいっそうおいしく YORIISO

  • プロフィール MUJIキャラバン隊
    長谷川浩史・梨紗
    世界一周の旅をした経験をもつ夫婦が、今度は日本一周の旅に出ました。
    www.cool-boom.jp
    kurashisa.co.jp

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