綾町の美しい町づくり
宮崎県のほぼ中央、宮崎市から西に約20kmの地に、
多くの緑に囲まれた美しい町があります。
綾町(あやちょう)。
人口7200人強の小さな町です。
今、この小さな町が世界中からの注目を集めています。
2012年7月11日、ユネスコのエコパークに登録されたのです。
ユネスコのエコパークとは、一言で言うと、
地域の文化を守りながら、地域社会の発展を目指す地域のこと。
評価された点は大きく以下の点で、
日本固有種の多い照葉樹自然林の面積が日本一広く、
その保護・復元活動に積極的に取り組んでいる点と、
町を挙げて有機農業を推進し、自然と人間の共存に配慮した地域振興策。
約380戸ある農家のすべてが、
綾町の認める有機農業に準じているのです。
そもそも綾町が有機農業を推奨し始めたのは昭和48年のこと。
今でこそ有機栽培された野菜が注目されていますが、
当時から町ぐるみで有機農業に舵を切っていたとは驚きです。
そこには、亡き郷田実、前町長の強力なリーダーシップに基づいた
町政がありました。
『命を守り心を結ぶ-有機農業の町・宮崎県綾町物語-』(自治体研究社)
によると、前町長は、町づくりの目標は、
「目先の住民ニーズよりむしろトレンド(方向・近未来像)を示すこと」と置き、
「心の豊かさ・余暇を楽しむ・健康を買う時代の到来」と捉えます。
そして、かつて農山村の伝統であった『結いの心』に焦点を当て、
町民が生き生きした生活文化を楽しむ町づくりを推進しました。
昭和40年代前半、
綾町にも大規模な国有林の伐採計画が持ち上がったことがありましたが、
前町長は、「照葉樹林を町の発展のために最大限に利用したい」として、
国に直談判をし、計画を阻止。
その後、「森を守ろうという気運を高めたい」と、
照葉大吊橋の建設を決めました。
同時に、「自然の仕組みを生かし、健康な野菜をつくろう」と
地域住民に対して有機農法を導入した、一坪菜園の推進と
野菜種子の配布を行ったのです。
現在、綾町役場で有機農業振興係を務める
入田さんにお話を伺いました。
「綾町では、昭和63年には全国に先駆けて、
自然生態系農業(有機農業)の推進に関する条例を制定しました。
家庭から出るし尿や生ごみ、家畜糞尿などを町で回収して、
堆肥や液肥にリサイクルすることも進めています」
こうした取り組みも、前町長の提唱する
「土づくり」の考えに基づいたものです。
「薬をかけないとは言わない。土をつくれば薬は必要なくなる」
町内で資源循環を行うシステムが出来上がっているのです。
「さらに綾町では、管理状況に応じて、
農産物のランク付けを実施しています。
厳しい基準の認証制度をクリアしているので、
安心・安全な自然生態系農産物の証といえると思います」
認定は、過去の農地の管理状況に加え、
栽培された作物の栽培管理状況によって、
総合的にランク付けされるようです。
入田さんにお薦めされ、地元で生産された新鮮な有機野菜などが並ぶ、
町中の「手づくりほんものセンター」に足を運ぶと、
そこには確かにランク分けされた野菜が並んでいました。
こうした農産物は、町内の公共施設をはじめ、
学校給食の食材にも使われていますが、
最近では、県内はもとより県外へも販路が拡大し、
町内への供給がひっ迫するほどだそう。
そんな綾町へは有機農法による農業を求めて、
毎年30組ほどの移住希望者がいます。
町では有機農法の厳しさを正直に伝え、それでも取り組みたい、
という希望者を、年間3~5組受け入れているそうです。
観光客に関しては、年間120万人が訪れるまでに。
綾町の町づくりは、
あくまでも地域住民が生き生き楽しく暮らせる町をつくることであって、
そこに時代と周囲が付いてきているのです。
帰りがけ、前町長の娘さんが営まれている、
「薬膳茶房オーガニックごうだ」へと立ち寄りました。
限定メニューで提供される料理の数々は、
どれも健康と美味しさのバランスが取れたものばかり。
綾町には、
町づくりのうえでも、人が生活を営んでいくうえでも、
様々なヒントが隠されているように感じました。