MUJIキャラバン

原点回帰

2012年06月21日

長野県に入り、信州蕎麦でも食べたいなと、
ふらっとお蕎麦屋さんに入りました。

時を忘れるようなひと時を過ごしてほしい、
と、名付けられたお店の名前は「時香忘(じこうぼう)」。

木の廊下を曲がった先には、
確かに現実を忘れるような空間が広がっていました。

「昔は、小麦粉なんてなかったから、
蕎麦粉十割で打つのが当たり前だったんです」

元商社マンだったという亭主が、
そう話しかけてきてくれました。

原点に立ち返り十割で打たれた蕎麦はみずみずしく、
蕎麦の味が口いっぱいに広がる美味しさでした。

「原点に立ち返ることの大切さは、
この会社に教わったともいえます」

そう亭主に強くお薦めされ、ご紹介頂いたのが、
長野県伊那市にある「伊那食品工業株式会社」。

敷地に入った瞬間から、
なんて素敵な会社なんだろう、と感じるほどの雰囲気が漂っています。

一見、どこかの公園の写真のようにも見えますが、
れっきとした伊那食品工業の会社の敷地の一角です。

歩いている方々は、地元か観光客の人たち。
そう、敷地内は誰もが出入り自由なんです。

「敷地内の緑は、すべて社員たちの手によって整備しているんですよ」

突然の訪問にもかかわらず、快く迎えてくださったのは、
営業推進部の太田課長。

「もともとは社員の憩いの場の整備のつもりだったのですが、
それが自然と社外の人たちにも受け入れられるようになりましてね」

太田課長がそう話すように、
地元の人たちの憩いの場になっている敷地内には、
中央アルプスからの伏流水を汲み上げた水汲み場があったり、

レストランやショップがあったり、

さらには、無料で身体測定をしてもらえる施設まで。

標榜していないものの、会社の発展は地域の人たちの健康と共に、
といった会社のスタンスを表しているかのようです。

会社の一角には、こんな社是が掲げられていました。

「いい会社をつくりましょう。」

この社是の補足文章には、こう続きます。

「いい会社とは、単に経営上の数字ではなく、会社を取り巻くすべての人々が
『いい会社だね』と言ってくださる会社のこと」

この文章を読んだとき、上記のような施設があるのも納得させられました。

100年先の会社の維持発展を目指して掲示されている「100年カレンダー」は、

現場では当たり前のように、顧客先や関連企業の機械のメンテナンスや
入れ替え時期を明示するためのツールとして活用されているそうです。

自社のみならず顧客先や関連企業の維持発展も、
重要な仕事と考えているのです。

そんな伊那食品工業では、
創業以来、一度もリストラを行ったことがありません。

さらに、寒天という斜陽産業のなか、
ブームの到来する平成18年までのあいだ、
48年間増収増益を果たしてきたといいます。

経営理念には、
「企業は社員の幸せを通して社会に貢献すること」
と明記してある通り、
社員には家族や趣味を大切にするように促しているそうです。

そして、例えば社員の釣り好きから発展して、
釣りで使用するワームを寒天で開発したりなど、
社員の趣味から仕事に展開されることも多々あるんだそう。

社員も草木も生き生きしているように見えたのは、
こうしたブレない経営理念から来ているものなのでしょう。

塚越寛代表取締役会長の言葉を紹介します。

「日本社会には今、『改革』という言葉が満ち溢れています。
真の改革とは、本来あるべき姿に帰ること、つまり『原点回帰』にほかなりません」

原点を見つめ直すことの大切さは、
これまでのキャラバンでも多々、感じてきたことでした。

この原点こそが、伊那食品工業にとっては"寒天"であり、
経営視点では"社員の幸せ"なんだろうと思いました。

伝統産業に新しい付加価値を与えながら発展し、
社員とその周囲の幸せの波紋を広げていく姿は、
これからの企業が目指すべきモデルといえるのではないでしょうか。

  • プロフィール MUJIキャラバン隊
    長谷川浩史・梨紗
    世界一周の旅をした経験をもつ夫婦が、今度は日本一周の旅に出ました。
    www.cool-boom.jp
    kurashisa.co.jp

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