民芸運動と松本家具
国宝・松本城を中心に広がる旧城下町、長野県松本市。
ここもまた、キャラバンの旅中に何度も触れてきた、
柳宗悦氏を中心とした「民芸運動」とゆかりの深い土地柄です。
今回はそんな松本市で、
長野県の伝統的工芸品の指定も受けている、松本家具を作る
「松本民芸家具」を訪ねました。
松本は、日本で3番目の高さを誇る穂高岳や上高地に囲まれ、
とても乾燥しており、木材を乾かすのに適している気候のため、
昔から木工業が盛んでした。
さらに、松本城建造にあたって優秀な職人たちが全国から集結したので、
安土桃山時代を起源として、日本で3本の指に入る和家具の産地へと発展。
しかし、太平洋戦争と時代の変化にともない、和家具の生産は衰退していきます。
「戦後、将来に対して空虚感に襲われていた私の祖父が、
何か人の役に立てることはできないかと、
民芸運動の柳先生に相談して始めたのが、洋家具づくりでした」
松本民芸家具の創設者・池田三四郎氏の孫で、
現在、常務取締役を務める池田素民さんはそう話します。
これまで民芸運動について私は、
"日常的な暮らしの中で使われてきた手仕事の日用品の中に
「用の美」を見いだし、活用する運動"と理解していましたが、
戦後のタイミングにおいては、
"日本人の心を取り戻す運動"でもあったことを池田さんのお話から知りました。
池田三四郎氏は、友人に誘われて参加した民芸運動の勉強会で、
そこに集まる人々の真剣さに心を奪われ、
「戦争で生き残ったからには何かしなければいけない」
と民芸運動の創始者・柳宗悦氏の門を叩いたそう。
そして、「松本の木工業を再度立て直してみたらどうか」
という柳氏の助言に従い、
生活が西洋化してきていた時代に合わせて、
洋家具を手掛けるようになったといいます。
こちらは、ショールームで見かけた、松本民芸家具の代表作のひとつで、
柳氏の愛用の椅子を基に習作された、「ウインザーチェア」。
背もたれの材が一本柱のチェア(写真左下)に対して、
すべての材がバラバラで角度がついているのが特徴のウインザーチェア(写真右下)は、
椅子としての力学構造が成立していて、踏ん張りが利きます。
他にも、重厚感あふれるこれらの家具は、
そのほとんどが職人による手作業で作られていました。
「うちは図面もCADではなく、手で描くんですよ。
手描きはニュアンスが出せて、そうすると見る角度によって見え方が異なる。
つまり"味"が出せるんですよね」
と池田さん。
作業は分業制で、設計、木材の管理・木取り、組み立て、塗装と
大きく4つのパートに分かれています。
「分業制にすることで、職人の個性を消しています。
また、餅は餅屋に任せた方が合理的。
例えば、作り手が材料を選ぶと、使いやすいものを選んでしまうため、
材料の無駄遣いになってしまう」
そして、手作業でありながら、量産してきた工夫も
工房内に見つけることができました。
天井からズラリと吊るされているのは、木型の数々です。
親方・子方制度で技を身に付けていき、
あとは型さえあれば、
いつでも同じ家具を再現できるようにしているといいます。
「材料、環境に合わせた変化は日々していますが、
基本的に作ってきたものは今も昔も変わりません。
普遍的なものは変える必要がないですから」
もともと伝統を守るために始まったわけではなく、
時代に合わせたものづくりとして始まった、松本民芸家具。
「戦後のものづくりの方向性としては珍しかったかもしれませんね。
それしか道がなかっただけですが」
そう話す池田さんに、伝統とは何かを聞いてみたくなりました。
「伝統とは、技術だけでなく、人の心だと思うんです。
すべて"○○するため"という思いやりから来ているんですよね。
例えば、材料を無駄遣いしないため、
使いやすいため、後で直せるようにするため
」
松本民芸家具では、永く使い続けてもらうために、
修理を受け付けていますが、
修理品である過去の商品から、構造など学ぶことが多いそうです。
そしてまた、池田さん自身も、池田三四郎氏の存命中には、
ほとんど教わった記憶はなく、
亡くなった後に出てきた同氏の写真日記からいろいろと学んだとか。
「日記を読み返して分かったのは、難しい哲学ではなく、
祖父がやってきたことは、人と人のつながりだったということ。
『民芸運動ってすごく人間臭かったんだ』って、
その時すごく腹に落ちたのを覚えています」
さらに、こう続けられました。
「気候、風土と昔の人たちの知恵の積み重ねがあってこそ、今の仕事がある。
これらを次の時代につなげていかないと
。
そのためにも、ものづくりが何かをもう一度考えてみたいですね。
"人の意識"が今後の生命線ではないかと思っているので」
職人の手によって紡ぎ出される、松本民芸家具の使い心地は
説明されて理解するよりも、
使っていく中で自然と伝わってくるものだといいます。
そして、その手仕事の裏には、
未来の日本人に対する先人たちの思いやりが
たくさん詰まっていたことを知りました。
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(各イベント要予約 ※申込は定員に達し次第終了致します)