MUJIキャラバン

いただきます

2012年10月17日

私たち日本人が食事の前に言うことば、
「いただきます」。

当たり前のように日々つぶやいている、このことばですが、
改めてことばの意味を考えさせられる機会がありました。

豚カツ、豚汁、豚キムチ…

これらのおかずが食卓に並んだ時に、その「命」を想像することはありますか?

今回訪れたのは、長崎県北部の佐世保市江迎町(えむかえちょう)にある、
林さん親子が運営する「味菜自然村」。

ここでは約70頭のブタが、高原の中でのびのびと暮らしています。

代表の林拓生さんは大学卒業後、
脱サラして農園を営んでいた両親を手伝い始めましたが、
「自分には細かい農業よりも、畜産が向いている」と考え、
6年前に養豚を始めました。

大学で環境循環を学んでいた拓生さんが取り組んだのは、
「自然」をテーマにした、放牧養豚。

ブタたちは、昼間は放牧地帯で自由に過ごし、
夜になると自分たちで小屋に入って寝るそうです。
私たち人間と同じですね。

5ヘクタール(東京ドーム1個分強)の敷地は、
いくつかの放牧スペースに分けられ、兄弟(5~8頭)ごとに放牧されていますが、
使用する放牧地は、草を育てるためにも半年ごとに入れ替えるそう。

拓生さんについて、放牧スペースに行ってみると
肝心のブタが見当たりません。

「ブーチン!ブーチン!!」

拓生さんがそう呼びかけると、
どこからともなく次々にブタが集まってきました!

自然の中で育っているブタですが、拓生さんには
すっかり懐いている様子。

餌をもらえると思ったのかもしれませんね。

餌は1日1回、夕方に与えるそうですが、
地元の病院や老人ホームからもらってきた残飯や野菜を煮てから乳酸発酵させ、
オリジナルの飼料を作って与えています。

発酵飼料はブタの腸内活性を促し、ブタの健康を保つと同時に、
糞のニオイを抑える役目もあるそうです。

そういえば、ブタの近くにいても、
ほとんどニオイが気になりませんでした!

ムシャムシャ… モグモグ…

ブタって草も食べるんですね。
拓生さんがあげた草をおいしそうに食べる彼ら。

すると、拓生さんから驚きの発言が!

「ブタは土も食べるんですよ。ミネラルが含まれているので」

歴代のブタたちが食べてできた洞窟がありました。
放牧したからこそ、分かったブタの習性です。

「味菜自然村」では、出産も自然分娩で、母ブタの生む力に任せるそう。
ちょうど5日前に生まれたばかりの子ブタを見ることができました。

以前は、竹やぶの中で出産したブタもいたそうですが、
生まれたばかりの子ブタが脱走してしまったことがあり、
今は畜舎で出産し、生後数ヵ月経ってから放牧するそうです。

こうしてブタは食肉となるまでのあいだ、
「自然」の中で極力ストレスをかけずに育てられ、
その生涯をのびのびと過ごします。

拓生さんは
「食べる人のためにも、自然のまま元気に育てることが使命です」
と語ってくれました。

今回の取材で数時間いただけでも、ブタに情が移ってしまった私たち。
生まれた時から愛情を注いで育てている拓生さんは
どんな想いで出荷しているのでしょうか?

「あまり何も考えないようにしています。
ただ、ブタに感謝して、無駄にはしないようにしていますね」

「味菜自然村」で育ったブタのお肉は、会員になった人が購入できますが、
注文が1頭分になるまで待ってもらうこともあるといいます。

食事の前の「いただきます」は、
生き物の命をいただくことへの感謝の気持ちを、
食後の「ごちそうさま」は、
おいしい食材を育ててくれた生産者や
その食材を調理してくれた人への感謝の気持ちを、それぞれ表すことばです。

心のこもった「いただきます」と「ごちそうさま」を言うには、
まずは食材の生産現場を知ることが大切かもしれません。

  • プロフィール MUJIキャラバン隊
    長谷川浩史・梨紗
    世界一周の旅をした経験をもつ夫婦が、今度は日本一周の旅に出ました。
    www.cool-boom.jp
    kurashisa.co.jp

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