手延べそうめん
韓国の冷麺、ベトナムのフォー、イタリアのパスタなど
、
ぱっと思いつくだけでも、世界中に広がっている麺文化。
麺の発祥には諸説ありますが、大陸を経て伝わった日本では、
そば、うどんをはじめ、そうめん、ラーメン、近年ではパスタなど、
世界でも有数の麺愛好国となっています。
これまでの旅路でも、
痩せた土地や山間部の傾斜地などでは救荒作物のそば文化が根付き、
良質の小麦が採れる地域ではうどん文化が発展するなど、
各地の気候風土に合わせた麺文化の軌跡を見ることができました。
そして奈良県では、日本ならではの発展を遂げた麺に出会いました。
「三輪そうめん」です。
その歴史は奈良時代にまでさかのぼり、そうめん発祥の地ともいわれています。
三輪山周辺から湧き出る水にミネラルが多く含まれており、
肥沃な土地と湿度により、そうめん造りに適した小麦が採れたのです。
江戸時代、伊勢参りや大神(おおみわ)神社などへの往来で、
三輪の地を訪れた人たちが、参拝ついでに習い覚えて帰り、
各地にそうめん文化が広まっていったそう。
今も三輪(現桜井市)には数多くのそうめん製造業者が存在していますが、
その中でも、老舗で知られる「三輪そうめん山本」を訪ねました。
寒い冬季の作業になるそうめん造りは、農家の閑散期の副業として広まり、
地域とともに発展してきたというから、その功績から考えても、
紛れもなく地域におけるリーディングカンパニーといえるでしょう。
造られているのは、昔ながらの「手延べそうめん」です。
「手延べ」とは、薄く延ばした生地を刃物で切る「切り麺」とは異なり、
その名の通り麺を手で延ばしていく製法。
三輪そうめん山本では、独自のそうめん専用の小麦粉を使用し、
気温や湿度に合わせて小麦と塩を配合、少量の綿実油を塗布しながら、
徐々に麺に撚り(より)をかけながら延ばしていきます。
延ばした麺を8の字にかけたものを細くしていく、
手延べ体験をさせていただきました。
力を入れるとグーッと延びていきました。
まるでチューインガムを延ばしているかのような感覚です!
約60cmまで延ばしたものを、室(むろ)に入れて翌日まで熟成。
この延ばしては寝かせてというのがポイントで、
熟成を促し、麺に粘りが加わるんだそう。
こうしてしなやかになった麺を、さらに
そうめんの細さまで少しずつ引き延ばしていきます。
機(ハタ)にかけて1m程に延ばしたら、登場するのが2本の棒。
8の字に巻かれているため、両サイドへ開くことで
粘着した麺がほぐれていくのです。
2m程まで延びた麺を指で触ってみると、
ハープの弦のように美しくなびいていました。
その後、これらをじっくりと乾燥させ、
人が食べやすい19cmに切りそろえたら完成。
といいたいところですが、そこから蔵に入れられ、
厄(やく)と呼ばれる高温多湿の梅雨期を越すことで、
茹でのびしにくくコシの強いそうめんができるのだそうです。
現在では、機械が導入されていますが、
あくまでも人の手の補助的役割であって、製造工程は全く変わっていません。
実に麺づくりの工程だけでも36時間、
商品として出荷するまでに1~2年を要するのです。
そんな三輪そうめん山本では、
世界最細という手延べそうめん「白髪」も造られていました。
その細さ、なんと直径0.3mm!
繊細な技術が必要とされる手延べ麺において、
ここまで細さとコシを実現できるのも、
あらゆる点で妥協のない証ではないでしょうか。
かつて保存食として生み出された三輪そうめんは、
現在においても、食卓で多くの人に愛されています。
その背景には、地域繁栄のために尽力した先人たちの努力と、
おいしさを保つために、伝統製法を守り続ける
生産者たちのひたむきな姿がありました。