吉野割り箸
私たちの生活に欠かせない道具のひとつ、お箸。
なかでも、外食時に多用している「割り箸」については、
「使い捨てはなんだかもったいない
」
そのように考えている人も少なくないかもしれません。
しかし、もとを正せば、この割り箸こそ、
「もったいない精神」の産物だったのです。
奈良県吉野地方は、古代から杉やヒノキが多く生えており、
1500年頃に造林が行われた記録があり、"林業発祥の地"と呼ばれたりもします。
一般に吉野の木材が多量に搬出されるようになったのは、
豊臣秀吉が大坂城や伏見城の建築を開始し、その建材利用や、
神社仏閣の用材としての需要が増加し始めた頃からだといいます。
江戸中期以降には酒樽の生産が盛んになり、
吉野杉材で作る樽の材料の端材が捨てられるのを惜しんで
「割り箸」が考案されました。
現在も、家の柱などの建築材として使われる中心部分を切り取り、
"木皮(こわ)"と呼ばれる残った部分を材料として、
「吉野割り箸」は作られています。
実は無印良品でも、毎年年末に吉野杉の割り箸を取り扱っています。
その生産者を訪ねると、端材を割り箸の長さにそろえるところから、
割り箸の形に加工されるまでの工程を見せていただくことができました。
また、驚いたのが、加工後の選定作業。
割り箸一本一本の年輪の幅や色を目でチェックし、ランク別に仕分けていくのです。
気の遠くなるような作業です
。
並べてみると、その違いが一目瞭然。
同じ杉を使っていても部分によって色が異なるのです。
左から順にランクの高いものですが、一番左の赤杉は木の中心部分を使うため希少で、
香りや抗菌作用が、白い部分よりも強いのだとか。
「残念ですが、日本で消費されている割り箸の98%は輸入品なんです。
海外産の割り箸は大根のかつら剥きのようにした板から作るので、
木目の向きなど関係なく、仕上がります。杉の割り箸はまっすぐに割れますよ」
生産者の涌本友晴さんがそう教えてくれました。
割り箸の大きな特徴は「食べる直前に割って使う」という点。
日本において、割り箸を割る行為は、
祝い事や神事などの「事をはじめる」という意味を持ち、
大事な場面には真新しい割り箸が用意される風習があります。
塗り箸もナイフやフォークも、何度も使うものなので、
1人1回きりしか使用しない割り箸が、
実は、本来客人をもてなすための「ハレの日」用なのだそう。
私たちも普段割り箸を割る際に、2本が均等に割れると
何かいいことが起こるような、そんなハッピーな気分になるものです。
ところで、吉野の割り箸は、
吉野で切った木をそこで加工し、そのまま出荷するので、
今回その工程を見てみても、何か薬品を使ったりすることはありません。
一方で、海外産の(特に竹製の)割り箸は、輸入の際に防カビ剤や防腐剤、漂白剤などが
使われているといいます。
使い捨てから"もったいない"というイメージを持たれがちな割り箸ですが、
本来そのまま捨てられるはずの端材や、森林整備で生じた間伐材を
有効活用することから生まれた、アイデア商品。
既にコンビニエンスストアや外食チェーン店の一部で、
国産材を使った国内産割り箸が使われているようですが、もっとそれが普及すれば、
割り箸が日本の森林を継続的に支えることのできるアイテムとなるかもしれません。
普段なにげなく使っているものが、
「どこでどのように作られているのか」を知ったり、
「"もったいない"といわれているものは本当にそうなのか」
などと掘り下げていくことが、
日本の森林問題のような大きなテーマに結びつく第一歩なのかもしれません。