トキのくらす島
トキが生息する島として知られている「佐渡島」。
離島への訪問は、このキャラバンで初めてのことです。
訪れた6月頭は、ちょうど「カンゾウ」と呼ばれる
佐渡島と飛島(山形)にしか咲かない花の季節で、
北端の大野亀(おおのがめ)では
辺り一面に咲き誇る光景を見ることができました。
寒い冬を乗り越え、初夏を迎えた頃に花を咲かすため、
佐渡ではこの花の開花が、漁を始める合図となっていたそうです。
豊富な海産物を誇る漁業のスタイルも様々。
南部の小木半島では、岩礁と小規模な入り江が多いことから、
安定感と操作性の高い舟として、江戸時代より「たらい舟」が用いられています。
現地では、桶を半分に切って海で使いだしたことから、
「はんぎり」と呼ばれているそう。
漕ぐのにさほど力を必要としないため、
現在でも採貝や採藻のために、女性も海に出ているんです。
実際、佐渡では、
新鮮な魚をはじめワカメや岩のりといった様々な海藻が食卓を彩ります。
新潟県は全国一、海藻などの消費量が多いようです。
そのお味はどれも新鮮そのもので、
口の中いっぱいに海の香りが広がりました。
そんな佐渡の歴史を語るうえで欠かせないのが「佐渡金山」。
かつて国内一の金産出量を誇り、
江戸時代には、徳川幕府の重要な財源となっていたようです。
算出し鍛錬された筋金(すじきん)は、貨幣に鋳造されていました。
この頃、鉱山で働いていた坑夫たちの間で生まれた文化が、
今でも、伝統芸能として色濃く残っています。
その一つが、「鬼太鼓」。
坑夫たちが、タガネ(鉱石を掘り出す道具)を持って
舞ったのが始まりといわれています。
島内では親しみを込めて「おんでこ」と呼ばれ、
お祭りには欠かせない存在です。
私たちが訪れた時も、たまたま一つの町で、
お祭りが行われていました。
厄を払うために鬼の面を付けながら、家々の前で太鼓を乱れ打ち、
年の豊作や大量、家内安全を祈願します。
その、時を切り裂くような太鼓の音色は、
ゆったりとした島の空間に、突如として活気をもたらすようでした。
もう一つ、島民の間で親しまれてきている伝統芸能が「能」。
国内にある能舞台の約3分の1が集中する佐渡は、
日本では他に類を見ないほど能が盛んなお土地柄。
都から能の大成者といわれる世阿弥をはじめとして、
流されてきた貴族や武士によって広まっていったようです。
毎年、初夏には各地の能舞台で薪能が奉納されます。
日も沈み、辺りが薄暗くなってきた頃から、
神社に併設された能舞台に、近隣の人々が集まりだし、
みるみるうちに、会場は人で埋め尽くされました。
佐渡での演目の多くは成仏できない魂を浄化するためのもの。
多くは武士の間で愛好されてきた能でしたが、
武士階級の少なかった佐渡では、人々の趣味として演じられてきました。
演じているのは当然、地元の方々です。
そのほとんどが観賞料が掛からないといいますから、
人々に心から愛され、守られてきているものなのですね。
薪が照らすなか演じられる能は、神秘的でありながら、
出演者の親類や友人が、観客として観に来ている様子は、
とても心温まる光景でした。
こうして佐渡では自然な形で、
島の伝統文化・芸能が脈々と引き継がれています。
文化を引き継ぐというのは、実際に身体で感じとり
触れることが大事なのだと学びました。