MUJIキャラバン

炎が作り上げる芸術

2012年12月04日

瀬戸焼、常滑焼、越前焼、信楽焼、丹波立杭焼、備前焼。

数ある日本の窯元のなかでも、日本古来より生産が続く上記の窯のことを
"日本六古窯(にほんろっこよう)"と呼び、
中国や朝鮮から伝来したものと区別されているそうです。

岡山県備前市は、そのうちの一つ、
実に約1000年ものあいだ窯の煙が絶えたことのない備前焼の里。

その焼物を一目見た瞬間、
今まで見てきたものと違うことに驚かされました。

釉薬が使われていないのです。

なんの飾り気もない素朴な風合いは、
どこか土器を思わせるような懐かしい感じもします。

「釉薬も化粧土もいっさい使わず、備前の土で成型し、
約1~2週間にわたってじっくり焼き上げるんです。
土のみですが、焼き締まり方が違いますから丈夫ですよ」

そう教えてくださったのは、
備前の地で作陶に励む森本仁(ひとし)さん。

美濃で4年間にわたり薫陶を受けられた後、
9年前に帰郷され、父親とともに作陶に励まれています。

「備前焼の土は、田土(たつち)といって、
田んぼの下を3mほど掘った鉄分の多い粘土層の土を使います。
田んぼに水が溜まるということは、
その下はキメの細かい土の証拠なんです」

見せていただいた乾燥した状態の土は、まるで石のよう。

この土を成型したものを、独自の登り窯でじっくりと焼き締めるんです。

釉薬を使う他の産地では通常1~2日で焼き上げるところも多いですが、
備前焼の場合1~2週間かけて焼き締めるため、
窯の燃料となる薪の量も並大抵の量ではありません。

なによりも備前焼の魅力は、
その窯の中で出会う土と炎が作り上げる模様です。

釉薬を使わないので粘着することが少ないため、
窯の中では下の写真のように作品どうしを組み合わせて焼かれます。

そのため、炎によく当たる部分と、そうでない部分で、
窯変(ようへん)と呼ばれる現象が起きるんです。

焼物のあいだに藁を敷くことで、あえて変化を出すことも。

「いつも窯から出すときはワクワクします。
どんな仕上がりを見せてくれるだろうって」

笑顔でそう話される森本さんですが、
釉薬をかけない分、ごまかしも利かないそう。

「土づくりから成型、焼成に至るまで、
一つひとつを丁寧に進めていかなくてはいけません。
生活が乱れると、それがそのまま焼物に反映されるんです。
土をいじっているのは作業の一部で、
仕事場と生活の環境を整えることが一番大切だと思ってます」

そう話しながら手ろくろを廻す森本さんは、
まるで修行僧のように規則正しい生活を送っているんだとか。

毎日、同じ時間に起床、就寝、食事を摂り、
常日頃からの身辺整理は怠りません。

陶芸に必要な自前の道具も、
すべて自然の産物から丁寧に作られています。

なにより作陶に励む場所そのものが、
とても静かな自然に囲まれた環境なんです。

私たちが訪れた季節はちょうど紅葉の季節で、
落ち葉に彩られた道を歩く森本さんは、
自然と五感を使って心身を整えられているようでした。

そんな森本さんが、備前焼で表現された器の一つがこちら。

すべて落ち葉のように見えますが、
実は手前は備前焼で作られたお皿です。

備前焼は、釉薬を使わない分、土が呼吸するため、
中の水が腐りにくいと花瓶などの用途に定評がありますが、
この器で頂くお茶も格別な味わいでした。

窯の中で土と炎が出会い、自然に生まれる模様は、
人の手で描くものとはまた違った素晴らしさです。

時代を超越して愛され続ける備前焼には、
今も昔と変わらない魅力が放たれているように感じました。

そしてそれは、森本さんをはじめとした、
普遍のリズムのなかで作陶する陶工たちによって、今日も支えられています。

  • プロフィール MUJIキャラバン隊
    長谷川浩史・梨紗
    世界一周の旅をした経験をもつ夫婦が、今度は日本一周の旅に出ました。
    www.cool-boom.jp
    kurashisa.co.jp

最新の記事一覧

カテゴリー