百年の森林構想
以前、岐阜県の石徹白(いとしろ)でも触れた日本の森林問題。
国土の約3分の2を占める日本の森林の多くは、実は30年以上前に植えられた人工林で、
適正な環境に保つためには間伐し続けなければならない状況にあるにもかかわらず、
建材需要の低下と、安い海外産の木材に押され、木を切る人が減少しているのです。
全国各地の森林で起きているこの問題は、各地域の行政も頭を悩ませています。
そんななか、村ぐるみでこの問題に取り組み始めている村が、岡山県にありました。
岡山県の北東部、西粟倉村(にしあわくらそん)。
人口約1600人の小さな村は、
実に面積の95%が森林に覆われています。
「今から約50年前、子や孫のためにと、木を植えてくださった方々がいました。
その想いを忘れてはいけないと、西粟倉村では森林の管理をあきらめるのではなく、
美しい森林に囲まれた上質な田舎を実現していくことを決めたんです」
西粟倉村にIターンでやってきた坂田さんが教えてくださいました。
2004年、平成の大合併を拒み、自立の道を選んだ西粟倉村では、
先人たちが植え、50年にわたって育ててきてくれた森林こそが村の資源と置いて、
もう50年かけて立派な森林に育て、村の産業としていく決断を下しました。
約1,330人が持っている森林を一括して役場が管理、
事業の委託を受けた森林組合が間伐し、
それで得た収益は持ち主と折半、費用は役場負担という試み。
これが、西粟倉村の掲げる「百年の森林構想」です。
この決断に呼応するように2009年10月、一つの会社が立ち上がります。
増加する村の間伐材の加工、販売をはじめ、
地域資源を発掘し、発信していくことを目的に設立されたのが
(株)西粟倉・森の学校です。
拠点を構える廃校になった旧校舎は、
その役割を学校から、地域の情報発信基地として変化させながら、
今も存分にその存在価値を発揮していました。
先にご紹介した坂田さんも、この森の学校勤務。
校内をご案内いただくと、中にはオフィス機能はじめ、
間伐材を使った家具の展示スペースや、
木製雑貨、ならびに、村の特産品を扱うショップ、
さらに、村で採れる食材を使ったカフェまで。
昨今、ハンター不足による過剰な増加が問題視されている
鹿の肉を使ったカレーも提供されていました。
ここは地域と地域外の人をつなぐ場でもあり、
地域資源の循環を試みる場でもあるのです。
もちろん、置かれている木工製品の多くは、
西粟倉村の間伐材を使って開発されたものでした。
木のぬくもりをそのままに感じることができる、
木皿やお盆、木のスプーンや、無漂白の割箸。
さらに机・椅子といった家具まで。
普段の生活のなかに自然と西粟倉の木が溶け込むようなものばかりです。
その昔、建材需要に備え植えられた人工林は、
そのほとんどがスギ・ヒノキのため、木材のなかでは柔らかく、
業界では家具には向かないといわれ、使われることも少ないそう。
「西粟倉の作り手たちは、そうした業界の常識に捉われずに
企画・製作していったため、新しい商品が生まれやすいんだと思います」
坂田さんがそう話される通り、スギ・ヒノキ材の家具をはじめ、
なかにはこんなユニークな商品も。
「モクタイ」
ヒノキの柔らかい質感で、木目がそのまま模様になるという逸品です。
さらに、森の学校で注力しているのが、
セルフビルドという考え方。
家のリノベーションをするにも、施工業者に頼むのではなく、
「ユカハリ・タイル」と呼ばれる、
裏に遮音シートが張られた50cm四方の無垢の木を買ってもらい、
それを自分で床に敷き詰めていくだけで、
この通り、無垢の木に囲まれた温かみのある空間に様変わり。
家族との時間を犠牲にしてまで働いて得たお金で何でも買ってしまう、
という近代の日本の生活スタイルに警笛を鳴らし、
時間の使い方を根本から考え直してもらうための提案なんだそう。
また、「お客さんができるところは任せる」というスタンスで、
つくり手に過剰な手間ひまをかけさせず、
その分、余分なお金をとらないという考え方に基づいています。
ゆえに、タイルは無塗装。
お客さんが自身で好きな色に変化させていくことができるんです。
このように、木と共生することを決めた村では、
木とともに生活するための様々な工夫が生まれていました。
村ぐるみで森林を間伐し、その木材を利用していく取り組みとしては、
全国でも先駆けた事例のように思います。
日本の美しい森林を守るためにも、
こうした実情に目を向け、選択をしていくことが、
私たち消費者にも求められているのかもしれません。