八島の黒糖
沖縄の家庭でお茶うけとして愛されている、「黒糖」。
私たちも沖縄の取材先で、お茶と一緒に出していただくことがよくありました。
一般的に私たちが料理などに使っている白砂糖(上白糖)は、
サトウキビの搾り汁から糖蜜を分離させたもので、"分蜜糖"と呼ばれます。
それに対して、黒糖は"含蜜糖"の代表的なもので、
原料であるサトウキビの搾り汁をそのまま煮詰めて濃縮し、
加工しないで冷却して製造したものです。
沖縄の島内を車で走っていると、
あちこちでサトウキビ畑を見かけましたが、それもそのはず。
黒糖は、江戸時代初頭に中国から琉球王国に製法が伝わり、
沖縄の特産品として発展してきたものでした。
沖縄島内では現在も、黒糖の生産が盛んなんだな、
そう思っていると、意外な言葉が聞こえてきました。
「いま、沖縄で黒糖を作っているのは、8つの離島工場のみなんです」
そう教えてくださったのは、
沖縄県黒砂糖協同組合の宇良勇(うらいさむ)さん。
もともと、沖縄本島にも黒糖工場は点在し、
集落ごとに黒糖づくりが行われてきました。
しかし、分蜜糖製造が始まると、国の政策もあり、
小さな工場は大規模な分蜜糖工場に整理統合されていき、
いまや沖縄の砂糖総生産量の9割以上を分蜜糖が占めるといいます。
「黒糖は、上白糖やはちみつと比べても、ビタミンやミネラルを豊富に含んでいます。
疲労回復にもうってつけで、今年の甲子園で
沖縄の選手たちが黒糖を常備している姿がテレビで映っていました。
ただ、昔に比べると、どうも"黒糖=年寄りの食べ物"になってきてしまった」
そこで、宇良さんたちは、若い人に向けた商品企画を始めました。
そうしてできたのがこちらの「八島黒糖」。
8つの離島工場で作られた、それぞれの黒糖が
カラフルな小分けのパッケージに入っている逸品です。
「黒糖って、ぶどうとワインの関係と一緒だと思うんです。
黒糖はサトウキビの搾り汁をそのまま煮詰めただけのものなので、
サトウキビの生産地の気象条件や土、その年によっても風味が変わってくる。
食べてみると明らかですよ」
宇良さんに試食を奨められて、いくつか食べてみると
確かに全く味が違います!
ふわっとした柔らかい食感もあれば、カリッとしたものもあるし、
苦みの奥に甘みを感じるものや、少し酸味のあるものなど、様々。
「僕は伊江島のものが好きだな
私はこっちかな
」
と人によって好みも分かれます。
そして、自分の好みの味が見つかると、
今度はそれがどんな島で作られたものなのか、自然と気になってきます。
まさにそれが狙いでした。
「この商品を通して、沖縄の島の個性を伝えていきたいのです。
8つの島には高校がないので、若い人はみんな島外に出ていってしまう。
そして一度島から出ると、なかなか戻ってこないのが現状で。
それに、地元の人でも他の島には行ったことがないことが多い」
可愛らしいパッケージのデザインは、それぞれの島の自然や
芸能文化がモチーフになっていて、島の特徴を伝えていました。
例えば、多良間島のものは、五穀豊穣を祈願して毎年夏に行われる
"多良間の豊年祭・八月踊り"の衣装が描かれ、
小浜島のものには、小浜島の海で出会える"マンタ"、
伊江島は、毎年春に100万輪の花を咲かせる"てっぽうゆり"、
そして西表島には、国の特別天然記念物にも指定されている"イリオモテヤマネコ"
が描かれています。
「黒糖は、島々の未来永劫産業なんです。
サトウキビがなくなると、その島のくらしがなくなってしまう
。
黒糖を作って売って、島のくらしが成り立つようにサポートするのが我々の役目。
沖縄黒糖は、輸入品や加工品(原料糖が海外産のもの)と全く違う、
ということを今後も多くの人に知ってもらいたいと思っています」
ちなみに、黒糖は、商品の原材料表示が「サトウキビ」となっていて、
8つの島で作られている黒糖には、
サンサンと輝く太陽とサトウキビがモチーフの"沖縄黒糖"マークがついているそう。
また、沖縄黒糖は、一般財団法人食品産業センターによって、
日本各地の豊かな食文化を守り、育てるために設けられた表示基準
「本場の本物」に認定されています。
製造者の原料と製法へのこだわりがあり、
生活者が安心して味わえる、本物の味の証。
全国でも今のところ33の品にしか与えられていないものだといいます。
「八島黒糖」を通じて、好みの黒糖の味を知り、
島にも興味を持って、人々が回遊する。
そんな好循環が続くことを願っています。
※「八島黒糖」は無印良品のFound MUJI取り扱い店舗でも
お買い求めいただくことができます。