MUJIキャラバン

日本人による、日本人のための自転車

2013年02月13日

今でこそ、誰もが気軽に乗っている自転車ですが、
日本で一般的に普及したのは明治時代のこと。
当時、大半の自転車はアメリカ、イギリスからの輸入品でしたが、
明治末期頃から、国内の製造会社が技術力と販売力をつけてきました。

その頃、活躍したのが戦国時代から培われてきた金属加工技術を持つ、
大阪・堺の鉄砲鍛冶でした。鉄砲の銃身を作る技術が、
自転車のフレームのパイプを作る技術として転用されたのです。

現在では、その生産拠点のほとんどが海外に移ってしまった自転車産業ですが、
今でも自転車利用者の多い大阪。
そんな大阪の街角で、一際目を引く自転車に出会いました。

お店の前に並べられていた自転車は、これまであまり
日本では見たことのないスタイルのもの。

なんだか過去に旅した自転車王国・オランダで見かけた
自転車を想起しました。

※2010年オランダ・アムステルダムで撮影

「これ、僕が通勤に使っている自転車なんですよ」

そう話すのは、日本製ハンドメイド自転車フレームを手掛ける、
「E.B.S.(Engineered Bike Service)」代表の小林宏治さんです。

「僕自身が大阪市内に住んでいて、車を持たない生活なんですが、
自転車がそれを補えるツールでありたいと思って。
荷物をたくさん積める自転車を作りました」

長年、自転車の流通業に携わっていた小林さんは、
欧米製の自転車を輸入・組立てしていく中で、
日本人の体型や生活に合った自転車のリクエストを
数多くお客様から聞いてきたといいます。

そんな時に出会ったのが、かつて自身も選手として自転車競技の実業団に所属し、
大阪の名門フレームファクトリーに勤務していた経歴を持つ、
佐々木隆二さんでした。

「自転車の可能性を広げたい!」と意気投合した2人は、
レンガ倉庫の一角を借りて工場を構え、
ゼロからの自転車作りをスタートしました。

彼らの作る自転車のコンセプトは、
「生活に即した修理可能で、永く快適に使える自転車」。

最近、スポーツ自転車フレームの素材として使われているのはカーボンが主流で、
その場合、溶接等ができないため修理が利かないそうですが、
「E.B.S.」では、修理や仕様変更の自由度が高い、
クローム・モリブデン鋼(クロモリ)を使っています。

例えば、この"LEAF-LONG"というお子様の送り迎え用の自転車は、
子供が成長した後に、フロントのカゴと後ろの荷台を取り外せば
スポーツ自転車として使えるのです。

また、自分たちが試乗して感じたことや、お客様からの声で、
その仕様は日々改善されていくそう。

"LEAF-LONG"では、子供の乗せ降ろしの際にしっかりと動かないようにと、
安定感のあるスタンドに変更されました。

さらに、小林さんは自転車のほかにこんなものも開発されていました。
「箱具」と呼ばれる、持ち運びできる木製の組み立て椅子で、
木工職人と共同で作ったものです。

「これを自転車のカゴにポンと乗せて出掛けたら、
どこでも走って出掛けた場所がピクニック空間になる」

斬新なアイデアを次々と形にしていっている「E.B.S.」ですが、
果たして肝心の乗り心地はどうでしょうか?

お店の前で試乗させてもらうと…

ビックリするほどにスイスイと坂道を上れてしまうではないですか!
一瞬、電動自転車に乗っているのかと錯覚してしまうほどでした。

それは、プロ仕様の自転車に用いられてきた技術を
佐々木さんが一般向けにアレンジして採用しているからです。

最後に、佐々木さんと小林さんそれぞれに
自転車づくりにかける想いを伺いました。

「乗ってよかったと思ってもらえるように、
常に乗る人のことを考えて作っています。
僕自身が自転車に乗っていたからこそ、
自転車の寿命や乗る人の気持ちが分かるんです。
幼稚園児の頃、祖母に買ってもらった自転車で遠出してしまい、
迷子になってパトカーで送ってもらった思い出があるくらい自転車が好き。
自分は自転車に乗るために、自転車を作るために生まれてきたんだと思っています」
(佐々木さん)

「20~30年のライフスタイルで永く使える自転車を、永く作り続けたいですね。
目の届く範囲で、派手ではなくコツコツと誠実に続けていきたいです」
(小林さん)

性能はもちろんのこと、乗ってわくわくし、
いつまでも使える自転車を作り、提案し続けている「E.B.S.」。

日本人による、日本人のための自転車がそこにありました。

  • プロフィール MUJIキャラバン隊
    長谷川浩史・梨紗
    世界一周の旅をした経験をもつ夫婦が、今度は日本一周の旅に出ました。
    www.cool-boom.jp
    kurashisa.co.jp

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