MUJIキャラバン

こんぶ出汁(だし)

2013年02月15日

日本料理に欠かすことのできない"だし"。

日本におけるだし文化のルーツは縄文時代にまでさかのぼるほど古く、
現在のだし文化の基礎は、江戸時代に花開いたものといいます。

土佐(高知県)、紀州(和歌山県)で開発されたかつお節に、
開拓地蝦夷(北海道)から商船"北前船"によって運ばれた昆布、
かつお節や昆布と比べ安価で庶民に親しまれてきたイリコ等など…。

肉ベースのだしが主流の欧米の料理とは異なり、
日本料理には実に多彩な素材から取られただしが使われています。

だしの種類は地域によっても異なり、
大まかに分けると、北前船が寄港した日本海側や関西は昆布だしで、
かつお節の生産が盛んだった四国や関東はかつおだしが主流でした。

北前船の起点であり、終点でもあった大阪は、
北海道から多くの昆布が運び込まれ、昆布の一大集積地となったのです。

そんな歴史を受け継ぎ、今も昆布だしの文化を
世に広める一軒のお店が、大阪中心地の空掘(からほり)商店街にありました。

「こんぶ土居」

大阪市内で100年以上前に創業し、
今やパリの三つ星レストランのシェフが直接買い付けにくるほどの老舗です。

上質な北海道産の昆布を取り扱っていますが、
特筆すべきは、その目利き力。

既に産地で等級分けされてきている昆布を、再度職人の目で確認し、
だし用、佃煮用、とろろ昆布用など、用途によって使い分けをしています。

実際に、味見をさせてもらうと、
右の黒っぽいものは、鼻に抜けるような強い風味があり、
左の白っぽいものは、まろやかで深い味わいを感じる等、
同じ昆布、同じ産地とはいえ、実に風味は様々。

「右のがBランクのもので、左のがAランク」

昆布の種類は14属45種とあるそうですが、
こんぶ土居では、これらの産地や生産者によって異なる昆布を、
毎年きちんと採点していっているんだそうです。

そして、3代目の土居成吉(しげよし)さんは、30年ほど前から
産地に直接足を運ぶようになったといいます。

それは、ちょうど昆布の乾燥方法が変わり、養殖が始まった時期であり、
土居成吉さんは昆布の見た目や味からその変化を察知し、
実際に現場で何が起こっているかを確かめに行ったのです。

以来、毎年産地を訪れ、生産者との信頼関係を作る一方で、
産地の小学校へ出向いて「いかにその地のこんぶが素晴らしいか」
を伝えるなど、生産者の後継者を育成する活動も行ってきました。

最近では父親に続いて、4代目の土居純一さんも
毎年産地に行って昆布漁を手伝うなどされ、
産地では"土居"の名が広く知れ渡っているそうです。

「昆布にはグルタミン酸といった、
うま味成分が多く含まれているんですよ」

そんな息子の純一さんに、だしのいろはについて教えていただきました。

人間の味覚というのは基本的に、甘味・塩味・うま味・酸味・苦味を
感じることができ、その内のうま味成分の一つが昆布に含まれています。

うま味には他にも、かつお節に多く含まれるイノシン酸などもあり、
これらが組み合わさると、よりおいしさが増すんだそう。

「昆布は水出し、かつお節はお湯出しが基本。
ただ、現在売られている合わせだしの素などは、
パックをそのまま煮出すから、昆布のうま味がキチンと出ていないんですね。
うちでは業界初(!?)昆布とかつお節のパックを分けた、だしパックを開発しました」

他にも、昆布とかつお節からとっただしを濃縮した
10倍に薄めるだけで使える「十倍だし」という商品も。

伝統を大切にしながらも、時代にあった本物の品を提供していっています。

「海外では注目されつつある日本のだし文化も、
肝心の日本では下火なんですけどね」

現在、日本では、そもそも素材からだしを取る家庭が少なくなってきており、
洋食化や簡易な化学調味料に流れているのが現状だそうです。

素材から取られるだしには、うま味成分を始め、
化学調味料にはないミネラル等、様々な微量の栄養素が含まれます。

なにより自然素材ゆえに画一化した味にならないため、
調理のおもしろさがそこにあるんだとか。

かつてイタリアの飲食店での勤務経験を持つ純一さんは、
こうした日本食文化の持つ良さを外から気付き、
その維持繁栄のために、父親の後を継ぐ決心をし、帰郷されました。

今では、だしの取り方講座を店舗で開催したり、
だし文化の啓蒙活動にも精を出されています。

「日本独特のだし文化。この文化を輸出産業にしていきたいですよね」

日本料理の命ともいえるだし文化を伝える「こんぶ土居」親子の役割は、
日に日に大きくなっていきそうです。

  • プロフィール MUJIキャラバン隊
    長谷川浩史・梨紗
    世界一周の旅をした経験をもつ夫婦が、今度は日本一周の旅に出ました。
    www.cool-boom.jp
    kurashisa.co.jp

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