MUJIキャラバン

おとうさんのヤキイモタイム

2013年04月04日

江戸時代よりサツマイモづくりが盛んに行われてきた埼玉県川越市。
当時、江戸では"焼き芋"が流行っており、
近郊の村々では、こぞって江戸向けのサツマイモを栽培したんだそう。

川越で作るサツマイモは、質がよく最高級品とされ、
また、川越は江戸と新河岸川で結ばれているため、船での運搬が可能でした。
こうしてたくさんのサツマイモを江戸に出荷し、
"川越=サツマイモ"というイメージが定着したといいます。

そんなサツマイモの産地、埼玉県で面白い取り組みに出会いました。
その名も「おとうさんのヤキイモタイム」というプロジェクト。

これは地域のお父さんたちが主体になり、焼き芋をするというイベントで、
2005年に「NPO法人ハンズオン埼玉」と埼玉県が共同で呼びかけ、始めたものです。

発案者である、ハンズオン埼玉の西川正さんに、
始めたキッカケについて伺いました。

「埼玉は残念ながら"自分のまちが好き"といえる人が少ない地域なんです。
というのも、県民の就業者及び通学者のうち、約1/4の100万人が
東京に通勤・通学していて、地元に知り合いがつくりにくいんですよね。
特に、働き盛りで子育て中のお父さんたちは。
地域のお祭りや運動会なんか見ていても、お父さんたちは写真を撮るだけ。
あとはちょっと"いたたまれない"人も多いです」

当時、西川さん自身も東京で働いており、地元に友人がいなかったと振り返ります。

西川さんは保育所の保護者会に参加し、
そこで知り合った何人かのお父さんたちと一緒に、
近所の畑を借りて畑仕事をするように。

「秋に採れたお芋で、とりあえず焼き芋をしてみたんですよ。
そしたら、焚き火をしながら待っている時間がとてもよかった。
焼き芋は炎が揺れて、煙も出て、そして、おいしい。
五感が働きます。
食べると一瞬にして場が和むんですよね」

この体験から、西川さんは県がちょうど募集していた
「お父さんのための子育て事業」に応募し、企画が採用されます。

育児参加、地域参加をしたいけれど機会がないお父さんに、
地域でつながり子育てする楽しさを味わってもらおうと
「おとうさんのヤキイモタイム」を始めました。

西川さんは、焼き芋をすることが目的ではなく、
当日までのプロセスを含めた、まさに「ヤキイモタイム」が大切だといいます。

「やってみてよく分かったのは、企画に参加した人たちが仲良くなっていくということ。
埼玉で焼き芋のための焚き火をするのは、そこそこハードルが高いんです。
でも、まったく無理ではない。
場所の確保や近所への挨拶回りなど、準備段階でちょっと苦労していくうちに、
お父さんたち同士も、地域の人とも仲良くなっていく」

話を聞いて、"焼き芋"が埼玉で実施するのに「ちょうどいい」ということが分かりました。
東京では焚き火をできる場所がほとんどないので実現が難しく、
逆に群馬や栃木では、焚き火自体が珍しくないからだそうです。

実施1年目に32ヵ所で始まった「ヤキイモタイム」は、
2年目に50ヵ所、3年目に75ヵ所に増え、
その後は100ヵ所で行われるまでになりました。

「焼き芋はあくまでキッカケ。『ヤキイモタイムの成果は?』と聞かれたら、
たとえば、卒園式や卒業式で、
どれだけ自分の子以外の子どもの姿を見て泣けるようになること、かな。
あるお父さんが、『西川さん、大人になってからの友達っていいもんですね』
といってくださったのが、一番うれしかったです。
その町であなたを知っている人がどれだけいるか?
地域の人とかかわることで"その町に住んでよかった"と思ってもらいたいですね」

と、焼き芋姿の西川さん。

「ソーシャルキャピタル(社会・地域における人々の信頼関係や結びつき)が
しっかりできていれば、災害時も大丈夫だと思うんです。
農村や漁村は普段のくらしの中に共同作業が組み込まれていますが、
都会や郊外にはそれがつくりにくい」

西川さんは、都下の大学で教鞭をとっており、
子どもたちにとっても、大人が地域活動をした方がいいと語ります。

「今の学生は敬語を知らないんですよ。
携帯世代で、親が知らない人と電話で話している姿を見たことがない。
だからこそ、子どもが地域のいろいろな大人とかかわる必要があるんです。
"たて(親)・よこ(友人)・ななめ(地域の人)の関係"がないと、
子どもは幸せに育ちませんから」

"お父さん"と"焼き芋"をキーワードに、
地域でちょっとおもしろいをつくりだそうとする西川さん。

その場を作り上げてしまうのではなく、
ちょっとしたキッカケを作り、あとは地域の人に任せる。

それが地域活動を無理なく続けるヒントなのかもしれません。

  • プロフィール MUJIキャラバン隊
    長谷川浩史・梨紗
    世界一周の旅をした経験をもつ夫婦が、今度は日本一周の旅に出ました。
    www.cool-boom.jp
    kurashisa.co.jp

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