MUJIキャラバン

麦わら帽子

2013年07月17日

今でこそ、ファッションの一部として、
私たちの日常に取り入れられている"麦わら帽子"。

明治期以前、"かぶる"という習慣がなかった日本に帽子がもたらされたのは、
開国にともなう西洋文化の移入によるものでした。

横浜など外国人居留地ではじまった帽子の生産は、
やがて原材料の産地へと移行。

大落古利根川と江戸川の水運に恵まれ、
肥沃な土壌で米と麦の栽培が盛んだった埼玉県の春日部市は、
岡山県と並んで、帽子の二大産地を形成していきます。

はじめは農家の副業として、
主に大麦の茎部分を編んだ"麦わら真田(さなだ)"を作り、
帽子の原料として海外へ輸出していましたが、

明治10年頃からは、麦わら真田の輸出の傍ら、
日除けを目的とした農作業用の麦わら帽子を手縫いで作るようになったそう。

そして、その後、ドイツからミシンが輸入されると、
本格的に帽子作りが産業化し、
最盛期には50軒ほどの帽子屋さんがあったといいます。

しかし、専業農家が減り、農作業用の麦わら帽子のニーズが減ると、
レジャー用の帽子や、季節を問わず需要のある園児用の帽子を
手掛けるお店も出てきたものの、帽子屋の数は減少。

現在も帽子作りを行っているのは、
UKプランニング株式会社(田中帽子)を含む、3軒ほどになりました。

「田中帽子は他があまり手掛けない、
ファッション用の帽子も作るようになったんです」

田中帽子の情報発信とネット販売を担う、
有限会社ビスポークの黒木克則さんはそう話します。

春日部出身の黒木さんは、皮革製品を中心としたバッグや小物の
販売を手掛けていますが、ふと地元の麦わら帽子について気になり調べてみると…

「このままではもったいない。
消費者に田中帽子について情報発信していけばもっと売れるはず」

そう思って、黒木さんは
UKプランニングの代表・田中英雄さんに話を持ちかけました。

こうして、歴史や製造工程などの情報をきちんと伝えるホームページができ、
それまでOEM生産をメインに行ってきた田中帽子の帽子が、
私たち消費者の手に直接届くようになったのでした。

工房を覗かせていただくと、そこは"帽子のテーマパーク"のように、
様々な帽子たちが私たちを迎えてくれました。

「カタカタカタカタ…」

ベテラン職人たちがそれぞれの持ち場で軽快に手を動かしています。

その製造工程は、麦わらから帽子の形状にする「帽体縫い」、
形を整えるための「型入れ」、
汗止めやサイズ調整などの機能性を追加する「内縫い」、
そして最後の「装飾」と大きく分けて4つ。

すべてハンドメイドで作られています。
そして、使われている機械も創業以来、大切に使い続けているもの。

木型は日本人の頭に合わせた形になっていますが、
これを作れる職人は春日部に1人、
全国を見ても2人しかもう残っていないんだとか。

ちなみに日本人用の帽子と欧米人用の帽子は
並べて見るとその形の違いが明らかです。

日本人用(写真左下)は丸型、一方の欧米人用(写真右下)は卵型です。
海外で試着した帽子がキツイと感じたのはそのせいだったのかもしれません。

「"守ること"ではなく、"継続していくこと"を大事にしています。
イケイケドンドンな性格だから、一歩立ち止まって考えるのが苦手なんですが、
でも、時に振り返って、続けていくために何をしたらいいかを常に考えています」

そう語る田中さんは、15年ほど前から、
海外の工場でも一部ものづくりをしています。

「海外で生産してきたからこそ、
日本でもこうして今も作り続けていられると思っています」

と田中さん。

というのも、複雑でない生産に関しては、
海外産も日本産もその質はほとんど変わりがないといいます。

それでも逆に生産拠点を日本にも残しておいた理由を
田中さんは以下のように話してくれました。

「国内で作ってほしいというお客様もいましたし、
ロットが少ない場合、海外では受けられないケースもある」

また、黒木さんがこう加えます。

「お客様の細かい要求に応えられるのは
やっぱり日本の技術ではないでしょうか」

例えば、細麦を使ったこちらの帽子は、
幅が狭い麦わらを重ねながら縫っていくため、
製造工程が複雑で、日本でしか作っていません。

伸縮性に富んだ仕上がりになっていて、
かぶった時のフィット感は抜群のものになっています。

"守ること"ではなく、"継続していくこと"。

田中帽子が100年以上にわたり、
日本人の頭に合わせた帽子を作り続けられているのは、
様々なニーズに応えられる体制で、
時代に沿った帽子を柔軟に作り変えてきたからこそ。

最近では、人気漫画や映画などに登場する麦わら帽子を再現するなど、
伝統の技術を生かしてその活躍の幅を更に広げていました。

  • プロフィール MUJIキャラバン隊
    長谷川浩史・梨紗
    世界一周の旅をした経験をもつ夫婦が、今度は日本一周の旅に出ました。
    www.cool-boom.jp
    kurashisa.co.jp

最新の記事一覧

カテゴリー