MUJIキャラバン

"A級グルメ"の町

2012年11月21日

"B級グルメ"は聞き慣れた言葉になりましたが、
"A級グルメ"というワードを、
島根県邑南町(おおなんちょう)で初めて聞きました。

島根県の中部に位置する邑南町は、2004年10月に
旧石見町(いわみちょう)、瑞穂町、羽須美村(はすみむら)
の合併により誕生した町。

豊かな自然に囲まれ、寒暖の差を生かした水稲を中心とする
農業文化を形成する地域で、
現在 、"A級グルメ"による町づくりを行っています。

早速、仕掛人に会いに行きました。
現れたのは、パリッとジャケットを着こなした男性。

開口一番、出てきたのが
「昨日シンガポールから帰ってきましてね…」
という言葉で、なんだか商社マンのようですが、
彼は邑南町の商工観光課に勤める、寺本英仁さんです。

旧石見町ご出身で、東京の大学を卒業後、地元に戻って町職員に。
2004年の3町村合併時に、町の産業振興の担当になり、
道の駅の産直市や、地元産の和牛などを扱う通信販売サイト「みずほスタイル」
を次々と立ち上げていきました。

「地元の人は売れるという確信が持てる、青信号の状態じゃないと進めない。
赤か黄色か分からない時に切り込んでいくのが、行政の役目だと思ってます」
と寺本さん。

2005年にスタートした通信販売サイトですが、
当初、生産者はマイナス思考で、売れるかどうか疑問視していたそう。
そこで、寺本さんは発想の転換でモノの見せ方を変えていきました。

例えば、地元の石見和牛を売っていく際に
生産者は「うちには200頭しかいないから…」というところを、
寺本さんは「200頭限定の石見和牛!」というように変換。

「みずほスタイルをやって分かったことは、
モノが売れて外からのお金を獲得することが、町を元気にするのではなく、
モノが売れることが、モノづくりの人を元気にするんです」

通信販売という新しい販路が築け、モノが売れるようになり、
後継者が戻ってきたことに生産者は一番喜んだといいます。

また、2008年より毎年、全国の"田舎のお取り寄せ逸品"を
認定していくプロジェクト「oh!セレクション」を実施し、
審査委員長に料理愛好家の平野レミさんを招くなど、
PR活動に勤しんだ結果、邑南町の特産品の認知度は上がり、
一定の評価も得るようになりました。

しかし、質は評価されても、量がないのが弱点でした。
それなら、「ここでしか味わえない食や体験」を"A級グルメ"と称し、
人を呼び込んで、町内で完結させる「究極の6次産業化」を目指そうと、
取り組み始めたのが、2011年のこと。

その拠点として、2011年5月には、地元産食材を味わえる
町営のイタリアンレストラン「素材香房ajikura(味蔵)」をオープンさせました。

ここでまた面白いのが、そのプロデュースを担うシェフたちを
都市部から募集し、任せていることなんです。

シェフの三上さん(写真左)は、広島からUターン、
"耕すシェフ"の安達智子さん(写真右)は、横浜からIターンで
邑南町に定住しながら、野菜等の栽培から料理の提供までを行っています。

ちなみに"耕すシェフ"とは、将来的に邑南町で飲食店等の経営を目指す人を、
3年間の期限付きで町が募集しているもので、現在5人の"耕すシェフ"が活躍中。

安達さんは前職のネット広告代理店の経験を生かして、
情報の発信源となり、月1回、農家の方を招き、
その方が育てた野菜を使ったコース料理を楽しみながら、
生産者の想いを聞くことができる「生産者ライブ」の企画・運営も任されています。

島根県でこのような取り組みが10年ほど前からなされていたのは、正直知りませんでした。
こうした積極的な活動が行われているのはなぜなのかを寺本さんに尋ねると、
こんな言葉が出てきました。

「"過疎"という言葉は、実は島根から生まれたものなんですよ」

島根県西南端にある益田市匹見町は、1950年頃には7500人を超えていた人口が
1963年の豪雪後、人口流出が続き、現在は2000人を切っているそう。
また、65歳以上人口比率が53%を超える地域です。

「今我々がしていることは、10年後の日本につながる取り組みだと思っています。
『自分は何のために暮らすのか?』を考えた時に、
それは『自分らしさの追求』にあると思っていて。
そして、それは田舎の方が実現しやすいんじゃないかなって思うんです。
競争を生むのではなく、お互いを認め合う、
多面的な考えを認められる土壌づくりをできたらと考えています」

邑南町では、"A級グルメ"の町おこしのほかにも、
婚活イベントや子育て支援にも力を入れています。

「過疎化」は全国各地で起こっている、もしくは今後課題となってくること。
そして、邑南町には、そのヒントがたくさんありました。

  • プロフィール MUJIキャラバン隊
    長谷川浩史・梨紗
    世界一周の旅をした経験をもつ夫婦が、今度は日本一周の旅に出ました。
    www.cool-boom.jp
    kurashisa.co.jp

最新の記事一覧

カテゴリー