MUJIキャラバン

からみ織り

2013年03月19日

私たちの生活に寄りそう最も身近な素材といえば、
繊維ではないでしょうか。

一言に「繊維」といっても、その素材は化学繊維と天然繊維に分けられ、
天然繊維のなかでも綿や麻などの植物繊維、絹やアルパカなどの動物繊維とあり、
素材によって特徴も様々です。

素材は、原料の繊維を紡いで糸にする"紡績"、
その糸を交差させていく"織り"の工程を経て、はじめて布地となり、
洋服やカーテンなど、様々な繊維製品に用いられていきます。

また、素材の良し悪しを決める"織り"の手法も様々で、
一般的には「平織り」「綾織り」「しゅす織り」の3つが主流ですが、
今回訪れた静岡では、代々継承される独特の織りがありました。

「からみ織り」

2本のたて糸を交差させながら、その間によこ糸を通していく織り方です。

この2本のたて糸がねじられているのがポイントで、
よこ糸をしっかりとキープするためズレにくく、粗い目を出すことができます。

通気性が良いことから、夏用の浴衣やタオルケットなどに用いられますが、
静岡県の遠州灘に面した地域では、かつて漁網を編むのに用いられてきました。

その技術を継承する職人がいる、磐田市福田にある工場を訪ねました。

愛犬のももとともに迎えてくれたのが、からみ織り職人の佐野公生さん。

「昔はうちも漁師をやっておりましてね。半漁半網とでもいうのでしょうか。
私も"網屋の子"なんて呼ばれていました」

しかし、漁業の衰退や化学繊維の台頭によって、徐々に漁網の需要は減少。
佐野さんの父親の代から、布巾やボディタオルといった日用品向けに、
からみ織りの技術を活かしていくようになりました。

「蚊帳の素材としても注目されたんですよ。
糊づけされた蚊帳だと洗うことができませんが、
からみ織りであれば、よこ糸がズレにくいため、洗うことも可能なんです」

通気性が良くて、丈夫で洗える。

そんなからみ織の特徴を活かし、無印良品のオーダーメードのカーテンも、
からみ織りで作られています。

このからみ織りを織り成すのは、
昔ながらの織機と佐野家で代々引き継がれている技術。

「天然繊維を用いているので、
織機の力加減が利かずに糸を切ってしまうことも多々あります。
だから、付きっきりで調整してあげる必要があるんですよ」

佐野さんがそう話しているあいだにも、
けたたましい音を上げながら稼働していた一つの織機がストップ。

佐野さんはすぐさま不具合を判断し、調整していました。

「最近は目が悪くなってしまってね。息子に助けられることも多いんですよ」

今では、静岡県下でからみ織り専門の織屋(はたや)は3軒のみというなか、
後継者のいる佐野さんは、希少な存在です。

ただ、佐野さんは今のままでは難しいと警笛を鳴らします。

「私も父親から、継ぐなら自分で糸を買って織り、
自分で売っていかないとダメな時代が来るといわれていましたが、
実際それは当たっていました。息子には、このからみ織りの技術を活かして、
もう少し"味"を加えていってほしい。それが日本のものづくりの生きる道です」

佐野さんが継いだ頃は、
発注先からいわれた通りのものを織っていればお金が入ってくる時代でしたが、
一般的なものが徐々にコストの安い海外産のものにシフトしていくにつれ、
日本製のものはオリジナリティが求められる時代に。

佐野さんは、からみ織りの技術を活かして様々な柄を生み出し、
婦人服用の布地としても用いられ、その需要を開拓していったのです。

※写真はからみ織りによる伝統柄

「それまでできなかった織りが、
何年か続けると突然できるようになることがあるんです。
その時はうれしいですね」

そう笑顔で話される、根っからの職人気質の佐野さん。

最近では、テキスタイルデザイナーとともに企画し、
佐野さんの織ったストールがニューヨークのMOMA美術館の目に留まり、
併設のSHOPで扱われることが決まったそうです。

伝統技術を、その時代に合わせて展開していくことは、
どの業界にも求められていることなのかもしれません。

  • プロフィール MUJIキャラバン隊
    長谷川浩史・梨紗
    世界一周の旅をした経験をもつ夫婦が、今度は日本一周の旅に出ました。
    www.cool-boom.jp
    kurashisa.co.jp

最新の記事一覧

カテゴリー