MUJIキャラバン

いでぼく

2013年03月21日

「いくら牧場をキレイにしながら、良い牛乳を搾乳していても、
大手牛乳メーカーの牛乳に混ぜられれば一緒。それが悔しかったんです」

「いでぼく」の専務取締役、井出俊輔さんは開口早々、そう切り出しました。
いでぼくは、雄大にそびえる富士山の麓、静岡県富士宮市に構える牧場。

それまでは大手ナショナルブランドのために生乳を出荷していましたが、
18年ほど前から自らのブランドで牛乳を出荷するようになり、
今では、静岡県下のスーパーをはじめ、サービスエリアにも直営店を構えています。

その台頭ぶりの秘密を探りにお邪魔すると、
そこは、それまでの牧場のイメージを覆されるような場所でした。

まず驚かされたのが、
牛舎に近づいても、まったくといっていいほどニオイがしないこと。

「掃除は徹底していますから。牛だって人と一緒で、キレイな環境で過ごしたいんです。
糞尿まみれの牧場から、おいしい牛乳が採れるわけがないでしょ」

井出さんがそう語る通り、牛舎内は牛たちが寝そべる"敷きぬか"から餌まで、
湿気が籠って異臭を放たないよう、徹底して衛生管理が行われていました。

これは創始者のおじいさんの代から当たり前にしてきたことだそう。

「意識しているのは、人間のリズムに牛を合わせるのではなく、
牛のリズムに人間が合わせることです。
ストレスのない牛たちは、おいしい牛乳をたくさん出してくれる。
当たり前のことなんですが、"命"を育てている仕事なんです」

いでぼくでの日課は、
あくまでも"牛の"生活サイクルに合わせたものになっていました。

例えば、観光向けに乳搾り体験などは行わず、
1日2回、朝と晩にしっかり手搾りで搾乳しきってあげること。
それも搾乳が許されるのは、選ばれしプロのみという徹底ぶりです。
そうすることで、牛は張った乳にストレスをかけることがありません。

また、井出さんは牛の性格まで把握していました。

乳牛の代表格として知られる「ホルスタイン種」を普通とすると、

口当たりがすっきりしたミルクが特徴の、
日本では希少な「ブラウンスイス種」は"お嬢様"、

濃厚な乳質が特徴な「ジャージー種」は気の弱い"おてんば娘"と。

「ジャージーは、体調が悪くなると大げさにアピールしてくるんですよ。
人間だったら、かわいいけどお付き合いはできない。そんなタイプですね(笑)」

冗談を交えながら、井出さんは親しみを込めて牛のことを語ります。

何よりもいでぼくの最大の特徴といえるのが、
牛舎と生乳加工場の距離が近いこと。

本来、搾乳された生乳は、牧場から加工場に集められ、
一緒くたに殺菌加工処理され、出荷されるのですが、
殺菌加工されるまでに3~4日要することが一般的。

それが、いでぼくでは牛舎の衛生管理が行き届いていることから、
加工場が目と鼻の先に構えられており、
搾乳したての生乳をすぐに殺菌加工することができるのです。

"搾りたて牛乳"とは、まさにこのことですね☆

そんな牛乳をジェラートやソフトクリームにも展開しています。

牛乳を70~80%も贅沢に使用できるのも、牧場ならでは。

出産したての母牛から40分以内に搾乳した
成分の濃い牛乳を使用した「FIRST MILK SOAP」は、
いでぼくだからこその逸品といえるかもしれません。

また、こんな取り組みも。

掃除で集められた糞尿は堆肥にされ、地元の希望農家に配給しているのです。

逆に農家からは、その堆肥で育てた野菜が届けられ、
いでぼくの直営店で販売されています。

化学肥料をできるだけ使わずに豊かな土壌を作るための、
地域内循環のための取り組みです。

「牛という"命"からもたらされる恵みを、極力、無駄にしたくなくて。
あとは、日々の基本をキチンとやる。それだけです」

井出さんの言葉からは、一消費者としても、
牛という"命"から、かけがえのない"恵み"をいただいているという、
当たり前のことを思い返させてくれました。

そして、その恵みを最大限おいしくいただくために、
いでぼくでは努力を惜しまずに取り組まれていました。

その努力の結果は、静岡含む関東県下で約3000ある酪農牧場のなか、
関東生乳品質改善共励会で、最優秀賞を獲得したことが物語っているようでした。

  • プロフィール MUJIキャラバン隊
    長谷川浩史・梨紗
    世界一周の旅をした経験をもつ夫婦が、今度は日本一周の旅に出ました。
    www.cool-boom.jp
    kurashisa.co.jp

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