MUJIキャラバン

心地良いくらし

2013年03月22日

この旅で、改めて身近にあるモノやコトの大切さを実感する日々ですが、
なかでも「食」に対する価値観は大きく変わりました。

だからといってスーパーに売られているものに文句をいうぐらいなら、
いっそ自分で作ってみようと、思うようになりました。

ただ、自分たちだけで農作物を作りながら「半農半X」的なくらしをするのもいいですが、
それを地域コミュニティで実現できれば、知識も手間も共有し合えて、なおいいのでは?

そんなふうに考えていると、実際にそんな町が全国にあることを耳にしました。
通称「エコビレッジ」と呼ばれ、自分たちで農園を営み、
電力を自給し、町単位で持続可能性を追求するコミュニティです。

そんなエコビレッジのなかでも、ゆるやかなつながりのコミュニティが、
静岡県にあると聞いて、お邪魔しましした。

静岡駅から車で15分ほどのエリアに構えられた
エコロジー団地「池田の森」。

「ゴルフ練習場」として運営していた敷地を、
10年の構想を経て、「池田の森」に再生したのが、
(有)池田の森ランドスケープ代表取締役の漆畑成光(のりひこ)さんです。

「私が生まれ育った頃は、この辺りは畑と田んぼと山がある純農村地帯で、
家にもヤギや羊が飼われていたんですよ。
この団地では、そんな里山の風景を再現したかったんです」

そう想いを語ってくれた漆畑さんが参考にしたのは、海外のエコビレッジ。

アメリカ・カリフォルニア州デイビスにあるビレッジホームズや、
ドイツのエコロジー団地を参考にしたランドスケープが描かれています。

団地内の道路は子供がのびのびと遊べるように、
蛇行させたり、行き止まりだったりとスピードが出せない仕立てに。

食べられる町づくりを目論んで、街路樹には実のなる木が植えられ、
旬の時期には地域の子供たちが収穫して届けてくれるそう。

エコの観点でも、様々な仕掛けが講じられていました。

全戸の地中には、雨水タンクが埋められ、
庭木への散水はもちろん、有事の際の貯水として役立てられています。

公園の柵には間伐材が用いられ、

街灯用の電力は、風力+太陽光発電によってまかなわれています。

団地の中心の畑には、共有のコンポスターも。

「これを設けただけで、住民は落ち葉を拾ったら、
自然とコンポスターに集めてくれるようになりました。
堆肥にして土に戻す。その循環を意識するだけでも有意義なことです」

漆畑さんがそう語るように、コンポスターで堆肥化された落ち葉は、
住民の希望者によって組織された「農園クラブ」の共同農園に還元していました。

この共同農園は、団地の希望者ごとに区画が割り振られ、
各戸で自由に農産物が育てられています。

メンバーの皆さんは工夫しながら有機栽培に取り組んでいるとのこと。

併設されている漆畑さんが管理する田んぼでは、
田植えから収穫まで、団地の住民が協力して行っています。

毎年、秋に開催する「収穫祭」と呼ばれるバーベキューでは、
収穫した野菜を食べながら親睦をはかっているそうです。

「入居者に条件を設けたわけでも、行事への参加を強制しているわけでもありません。
町づくりをする身としては、あくまでもインフラ整備のお手伝いをするだけ。
概念ではなく、体験を通じてこうしたくらしの"心地良さ"を分かってもらいたい」

実際、住んでいる方は自営業者から、企業勤めのサラリーマンまで様々な顔ぶれ。
特にエコ意識の高い人ばかりが集まったわけではなく、
野菜作りも漆畑さん含め、初心者がほとんどだったんだとか。

ただ、こうした様々な活動によって、
住民のあいだにはゆるやかなエコ意識と連帯感が生まれていっているそうです。

団地内に流れる空気に、おだやかな雰囲気を感じたのは、
住民の方々が決して無理をしていないからだと思いました。

「昔の公団住宅なんかも、こんな雰囲気だったと思うんです。
エコを意識したわけじゃなく、昔の知恵に立ち返っただけ。
内側から体質改善できる場になれればと思っています」

そう話す漆畑さんも奥さんも、実に充実した表情をしていらっしゃいました。

私たちの思う"心地良いくらし"の一つの形が
ゆるやかなエコビレッジ「池田の森」にはありました。

  • プロフィール MUJIキャラバン隊
    長谷川浩史・梨紗
    世界一周の旅をした経験をもつ夫婦が、今度は日本一周の旅に出ました。
    www.cool-boom.jp
    kurashisa.co.jp

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