MUJIキャラバン

現代によみがえる、下駄

2014年06月11日

「花火大会に下駄を履いて行って、帰りに足が痛くなった。
そんな経験あるでしょう?
一日中履いていても足が痛くならなくて、
ジーンズにも似合う下駄を作りたいと思ってね」

そういえば、前回下駄を履いたのはいつだろう…
そんな想いを巡らせながらお話を伺ったのは、
静岡県静岡市にある、株式会社水鳥工業の代表・水鳥正志さんです。

静岡市には"材木町"という町名が存在するほど、かつては林業が盛んで、
下駄製造が地場産業として成り立ってきました。

その歴史は江戸時代の初めにさかのぼり、
徳川家康が駿府城築城や浅間神社造営のために、
全国各地から職人を集めたことが始まりとか。

その後、そのまま住み着いた職人が、静岡の伝統工芸のひとつ、
「駿河塗り下駄」の発展に寄与したといいます。

「昔は下駄が嫁入り道具だったし、地に足がつく暮らしが出来る様にという想いから、
お正月には親が子に新しい下駄をプレゼントする習慣があったんですよ」

※嫁入り道具の下駄

水鳥工業は昭和12年に、下駄の木地製造業からスタート。

しかし、昭和38年頃にはライフスタイルの変化にともない、
下駄木地の需要がほとんどなくなり、
サンダル用の天板や中芯の加工を手掛けるように。

また、昭和50年頃には、シューズの中底の加工を開始しました。

履物という括りでは同じものの、木地製造と中底の加工の技術は全くの別物。
水鳥さんは神戸の靴屋に技術を学びにいったそうです。

それでも、平成元年頃には、今度はサンダルやシューズメーカーの製造が
海外へシフトしていき、水鳥さんは危機感を抱きます。

「このままだと近い将来、日本でのサンダル、シューズ製造は激減する…」

中国の視察に行ってそう感じたという水鳥さんは、
頭を悩ませた末、あることに気付いたといいます。

「日本の気候風土にあった下駄をもう一度作れないか。
足の裏は平らじゃないし、足は左右あるんだから、
その区別のある下駄があったらいいじゃないか!」

帰国した水鳥さんは、早速新しい下駄づくりの話を
メーカーに持ち込みましたが、誰からも相手にされませんでした。

そこで、水鳥さんは覚悟を決めて、自社で下駄づくりを行うことを決めます。

そうして生まれたのが「げた物語」という名のついた下駄でした。

水鳥さんは、なぜ現代において下駄が履かれないかを今一度考え、
それは鼻緒が痛いからということと、今のライフスタイルに合わないからと結論づけます。

そこで、足を優しく包み込むような幅広い鼻緒と、
ジーンズなど現代のファッションにも合うデザインを実現。

履いた時に足にフィットするよう、鼻緒をつける時には、
足の専門家が作る"ラスト"と呼ばれる足型を下駄台に合わせて行います。

また、一日中履いていても足が疲れないように、
足裏のラインに気持ち良くフィットする木地部分は、
職人さんの手彫りで、一足一足仕上げています。

創業当時行っていた下駄木地製造の技術と、
何十もの工程を追って完成する中底づくりの技術の両方が、
まさに生かされていました。

「実は、静岡大学との共同実験で、
水鳥の下駄が健康に良い影響があるというのが分かったんです」

常務の水鳥秀代さんがそう教えてくださいました。

素足の場合と、水鳥の下駄を履いた場合の、
歩行前と30分間歩行した後の、足裏の血流循環量と重心位置を測定。

すると、水鳥の下駄を履いた場合に、
血流循環量が活発になり、体の重心も最適な位置に近づいていたというのです。

さらに水鳥の下駄の場合、浮指(立った時、足指5本が地面に付かない状況)が
改善されることも分かりました。

「履き心地を追求したうえで、履いていて楽しい下駄を作り続けたいですね」

そう秀代さんが話すように、水鳥工業では、
様々な素材にこだわった鼻緒を用いた下駄や、

デザイナーとのコラボレーション下駄、
最近では、木地に静岡産のヒノキを使った下駄も手掛けています。

「下駄は平和な時代に進化する履物。
いつまでも下駄を履いて暮らせる平和な時代が続いてほしい…
そういった願いを込めて、下駄を作り続けていきたいです」

そして、世界中の人にもっと下駄の良さを知ってもらいたい、
そう語る、水鳥さん。

左右形が異なるというのは、靴づくりからすると当然のことですが、
それをこれまでなかった下駄の世界で実現し、
履き心地を追求してきた結果が、
今こうして現代のライフスタイルに受け入れられることにつながっていました。

高温多湿の日本の風土に合った下駄が、
今一度、私たちの生活によみがえろうとしています。

  • プロフィール MUJIキャラバン隊
    長谷川浩史・梨紗
    世界一周の旅をした経験をもつ夫婦が、今度は日本一周の旅に出ました。
    www.cool-boom.jp
    kurashisa.co.jp

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