MUJIキャラバン

石徹白洋品店

2012年06月11日

住まう人が300人にも満たない、岐阜県郡上市白鳥町石徹白(いとしろ)。

今週は「MUJIキャラバン特別編」として、日本三名山のひとつに数えられる
霊峰白山の裾野にある小さな集落のレポートをお届けします。

石徹白は岐阜県と福井県の県境に位置し、山々に降り注いだ雨を恵みとする、
水の流れの絶えない美しい地域です。

この地を訪れるきっかけとなったのは、昨年からここに移り住んで小さな洋品店を営む
平野馨生里(かおり)さんを訪ねたことに始まります。

カンボジアの小さな集落で絹織物を復興させる取り組みを続けている
森本喜久男さんと無印良品の商品開発担当が交流する中で、
石徹白にもその土地の恵みや伝承文化を引き継ごうとしている
若い女性の存在があることを知り、取材をさせていただくことになりました。

これが、今年5月にOPENした平野さんの洋品店です。

古い民家を改修して設けられた店内。
古い柱の味わいを活かした素敵なしつらえです。
この場所は、なんとかつては馬小屋だったそうですよ。

平野さんはこの地に根ざした素材を使った洋服や雑貨を作り、販売しています。
どれもゆっくりと丁寧に作られたものばかり。

また、壁には石徹白に古くから伝わる野良着、
「さっくり」と「たつけ」が展示されていました。

「さっくり」は、山仕事で重いものを背負っても背中が痛くないよう、
分厚い木綿生地が用いられていて、縫い糸は二本どりでしっかりと縫われています。

「たつけ」は、しゃがんだり立ったりの動作の多い農作業にぴったりのデザインです。

土地の人々に愛されるものを土地の素材を活かして作りたいと願う
彼女の指針でもあるそうです。そして、これが復刻版として今回試作したもの。

まさにこれはFound MUJI。

古いのに新しい、そして懐かしいのにオシャレ。
機能的でありながらリラックスウェアでもあります。
(残念ながら試作品ですので、まだ販売はされていません。)

「土地の皆さんに教わりながら作ったことが、本当に楽しかった〜」

型紙もなく、かろうじて作り方を引き継いでいた地元の女性たちに教わりながら、
平野さんはその時間を楽しみながら一緒に作り上げたそうです。

この原型となった「さっくり」と「たつけ」は、
この地の文化を守り続けている一軒のお宅の倉庫から発見されたと聞き、
翌日伺ってみました。

その名も、「古い物資料館」。

そこでは、とても素敵なお母さんに、これらの道具にまつわるお話や、
人々が守ってきた白山信仰のことを伺うことができました。
この土地の人々がとても清らかな心で、くらしを営んできたことがひしひしと伝わりました。

ちなみに息子さんは、「ここで雇用を生み出したい」と建設業を営むこの地域のリーダー。
「ここで仕事が成り立たないなら、この仕事をやる意味はない」
と熱く語っていただきました。
この地に多く残る、石徹白の姓を引き継ぐ方です。

小雨の中、この土地の中心である"白山中居神社"を訪れました。

平野さんのご主人も一緒です。

杉の巨木に囲まれた、とても静かで荘厳な場所でした。
今も地域の人たちによって大切に守られていることがよく分かりました。

雨が上がり、緑はより深くとても美しい姿です。

平野さんは、東京での仕事に就いた後に故郷の岐阜に戻り、
改めて服飾の技術を学ばれました。
その原点には、冒頭でご紹介した大学時代に何度も訪れた
カンボジアの集落でみた絹織物の光景があるそうです。

これからの夢は、ここで素材を育て、紡いで、丁寧なもの作りを一貫して行うこと。
そこにはもちろん、人の繋がりが欠かせません。

「気持ちいいくらしをしたい」
とおっしゃる平野さんの瞳はとても澄んでいました。

とかく正しさに囚われがちな私たちにとって、
気持ちがいいかどうかを感じ取る人間の心の中にこそ、
本当に普遍と言えるセンサーがあるのではないか
ということを思わずにいられませんでした。

  • プロフィール MUJIキャラバン隊
    長谷川浩史・梨紗
    世界一周の旅をした経験をもつ夫婦が、今度は日本一周の旅に出ました。
    www.cool-boom.jp
    kurashisa.co.jp

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