美濃の和紙職人
石徹白洋品店で見つけたこの「ふみ箱」。
手すき和紙のテクスチャーに一目惚れしてしまいました。
こんなに素敵な箱に保存する物は、どんな物でもその者にとっては
宝物になってしまうのではないでしょうか。
箱には、中にしまう物の価値を左右しかねない不思議な力があります。
この和紙を作っている美濃和紙の職人、加納さんを訪ねました。
和紙といえば最古のものでは正倉院に残る1300年前のもの
があるとされていますが、美濃の和紙はその中でも高品質とされ、
江戸幕府御用達の障子紙として発展してきたそうです。
美濃は水が豊富な上、山と川しかない地域だったため
数千人もの人々が紙すきに従事されていたようですが、
今現在ではごくわずかの方しか残っていないといいます。
そういえば、日本の家屋の象徴のひとつでもある障子を、
現在では見ることが少なくなっています。
加納さんは、東京での「カミノシゴト展」をはじめとする
国内外で積極的な取り組みを行い、
美濃和紙の振興と再生に取り組んでいらっしゃいます。
その加納さんに和紙の作り方を簡単に教わりました。
まずは、紙の原料が何かご存じでしょうか。
楮(こうぞ)、雁皮(がんぴ)、三椏(みつまた)
といわれる木の皮が主な原料とされています。
まずはそれらをしっかり干した後、
写真に見えるコンクリート製のプールのような設備に水を張って晒します。
(かつてはこれを川の水と日光で晒したそう)
そして、次に釜で煮ます。
やわらかくなった繊維を水で洗って手でちりをとります。
この取り出した不純物がいわゆる「ちり紙」の原料となるのだからびっくり。
原料を木槌で叩いて繊維をほぐします。美濃独特の叩解(こうかい)という作業です。
だんだんと紙に近づいてきましたが、次がいよいよ紙漉きです。
原料とトロロアオイから抽出した粘液と水を混ぜ、簀桁(すけた)で漉きます。
前後左右に揺り動かして、繊維と繊維を絡ませます。
何十枚、何百枚も重ねて圧搾をして水分を絞った後、とち板に貼って天日で干します。
この板は、百年前からのものだそう。
そして、手に持っている刷毛(はけ)を作れる職人は
日本には最後の一人の方しか残っていないとのこと。
こうして昔ながらの手すきの和紙が出来上がります。
「冬の紙はぱりっと、夏の紙はふわっとするのが魅力です」
と加納さん。
夏は湿気を吸い、冬にははきだす和紙。
「和紙は寝かす」と言われるように、
時間が経つほど味わいが出て古紙ほど価値が出ます。
柿渋や藍染など、楽しみ方もさまざま。
「もの作りというより、素材を作っているという意識でやっています」
という言葉のとおり、
うちわや灯りのシェードから、表具といわれるインテリア素材にまで
和紙は多用途に利用されます。
加納さんは用途に合わせた紙を作ることで、
それぞれの職人とコラボレーションしてものを作っているんですね。
最後にこの仕事の魅力を尋ねたところ、即座に
「和紙が嫌いな人はいないんです」
と答えてくれました。
非常に根気が必要な仕事ではありますが、どんな人にも愛される和紙。
加納さんの人柄自体が、和紙のような雰囲気で、やさしく包まれるようでした。