自然体のワインづくり
栃木県足利市にひとつのワイナリーがあります。
「ココ・ファーム・ワイナリー」
ここで造られているのは、2000年の九州沖縄サミット、
2008年の北海道洞爺湖サミットで、各国首脳やそのご夫人達に振る舞われた、
100%日本のぶどうからできたワインです。
今回そのワイナリーのぶどう畑を訪れてみて、まず気づいたことがありました。
それは、畑がかなりの急斜面にあったのです。
1950年代に始まったこのぶどう畑ですが、
もともと計算や読み書きが苦手な子供たちとその担任教師
(ココ・ファーム・ワイナリー創設者の川田昇さん)が
山を切り開いてスタートした場所でした。
川田さんは、子供たちに農業体験を通じて、自分の仕事に誇りをもたせようと、
「一年中仕事が尽きない作物=ぶどう」を選んだそうです。
こうして始まったぶどう畑は開墾以来、除草剤が撒かれたことがないといいます。
「今でこそ、無農薬・有機栽培に注目が集まっていますが、
私たちはただ農薬を買うお金がなかっただけなんですよ。
草は手で刈り、置いておけば肥料になりますし。
ぶどうにかける袋は、もったいないから洗ってまた使っていただけですが、
"エコ"って褒められて(笑)」
そう、当時を知るココ・ファーム・ワイナリーの牛窪さんは語ってくださいました。
その後、1980年代に入り、生食用のぶどうづくりからワインづくりに転換。
当時、日本でワインはまだ珍しく、川田さんは
普段かっこ悪いと思われがちな子供たちに、
"かっこいい"仕事をさせてあげたかったのだそうです。
自然のままにできたぶどうを使った、ワインづくりは当然自然体で。
天然酵母を使った、低温醸造です。
このワイン貯蔵庫は夏でも冬でも温度が15℃前後だそうですが、
ここも山を掘ってつくった天然貯蔵庫。
そんなワインが、ソムリエの田崎真也氏の目に留まりました。
ラベルを隠したブラインドテイスティングで良い評価をいただき、
沖縄サミットの晩餐会で振る舞われるワインとして
選ばれるきっかけとなりました。
世界に認められた味は、自然の中で出来上がった味だったのです。
ココ・ファーム・ワイナリーを訪れて、
いいものづくりというのは、買い手のことだけを考えるのではなく、
作り手のことも考える中で、生まれるものだと感じました。