MUJIキャラバン

ジャパン・ブルー

2013年01月17日

"ジャパン・ブルー"とは、藍染めの色を指す言葉です。
諸説ありますが、明治初期に来日したイギリスの学者が、
多くの日本人が藍染めの服を着ていることに驚き、表した言葉なんだそう。

しかし、藍染めは日本独自のものというわけではありません。
茜染めや紅花染めなどのように決まった植物で染めるのではなく、
その土地にある"藍の色素"(インジゴ)を含んだ
植物の葉を利用して染めるのが藍染めです。

ヨーロッパではウォード、インドでは印度藍、
日本ではタデ藍や琉球藍がありますが、
日本における藍最大の産地は、阿波の国(現在の徳島県)。

県内を東西に流れる吉野川は、その昔、
台風が来るたびに洪水を繰り返す"暴れ川"だったそうですが、
そのおかげで流域には肥沃な土が運ばれ、藍作を可能にしたといいます。

藍は春に種を蒔き、夏に刈り取りを行うので、
私たちが徳島県にお邪魔した12月中旬には
残念ながら畑での栽培風景を見ることができませんでしたが、代わりに
藍の葉から「すくも」と呼ばれる天然藍染料を作る藍師さんを訪ねました。

作業が行われている「寝床」をのぞいてみると、
建物の中には鼻にツンとするニオイが充満しています。

一見して、土の山かと思ったら、これこそが藍の葉の塊でした。

夏に収穫した後、天日乾燥させ保存していた藍葉に
水をかけてはかき混ぜ、発酵を促すのです。

発酵が進むにつれて、積み上げた藍葉の温度は上昇し、
中心部は75℃近くの熱を持つといいます。

週1回、この水をかけてはかき混ぜる、「切り返し」という作業を行い、
それ以外はむしろの布団をかぶせて寝かせ、
約4ヶ月にわたって一連の作業を繰り返していくのだそうです。

摘みたての葉でも染料にはなるそうですが、
生葉染めの場合、夏から秋のタデ藍が生い茂る季節にしかできません。
そこで、藍の葉を保存しておくために、乾燥させるようになり、
乾燥した葉を発酵分解することで、藍の成分を凝縮させ、
保管、移動に便利になるだけでなく、
布や糸をより濃く鮮やかに染め、堅牢にすることもできるんだとか。

「阿波藍(=すくも)は1年かけて作る染料。
便利になった今の世の中で、これを残すことは時代に逆行していると思うけど、
ここで受け継がれてきたこの仕事を続けていきたい」

江戸時代後期から阿波藍を生産している、
新居製藍所・6代目の新居修(にいおさむ)さんはそう話してくださいました。

そして、仕事を続けていくうえで重要なのは"人材育成"
と語る新居さんのもとでは、
現在、息子さんの他に2人の若者が修業中です。

山形県出身の渡邊健太さん(27歳・写真左)と、
青森県出身の楮覚郎(かじかくお)さん(23歳・写真右)。

彼らは今年の7月から"上板町(かみいたちょう)地域おこし協力隊"として、
藍染め文化の伝承とPRを目的に日々活動しています。

すくもづくりも、染めも両方勉強中の2人に、
今度は染め工房に連れていってもらい、
せっかくなので、藍染めを体験させてもらうことに!

白い布を糸で縛ったり、洗濯バサミで挟んだり、
そのままくくるも、フィルムケースで挟むもよし。

心のゆくまま、染めない部分の模様づくりをしたら、
すくもに"ふすま"と呼ばれる小麦の外皮、石灰、木灰汁を加えて
さらに10日間ほど発酵させた、藍液の中に入れて少し浸けます。

実は藍液は還元状態で、青くありません。
どちらかというと、緑色のようですが、
空気に触れることで酸化反応が起き、
藍の成分が繊維としっかり固着して、そこで初めて鮮やかな藍色を発色するのです。

藍液に浸けては出し、酸素と触れ合わせる作業を
6回程度繰り返したら、水で洗って出来上がり!

想像以上に簡単、そして見栄えのよい仕上がりに大満足です♪
他にも、くしゃくしゃと丸めて茶こしに入れて染めるだけで…

こんな素敵な模様にもできてしまうんです★

ちなみに上板町の「技の館」ではどなたでも藍染め体験が可能です。

最後に、渡邊さんと楮さんに
なぜ藍染めに興味を持たれたのかを尋ねてみました。

「もともと古来の人のものづくりに興味があって。
初めて天然の藍染めを見た時に言葉にできない感動を覚えたんです。
今は毎日が楽しくて仕方ありません!」
(渡邊さん)

「大学で染めの勉強をしていたんですが、天然染料の中でも藍は特別。
将来、藍を使った自分好みのジーンズを作ってみたいと思っています!」
(楮さん)

天然藍に惚れ込んだ2人は、「BUAISO」というユニットを結成し、
来年春からは畑を借りて、タデ藍を育てるところから行っていくそうです。

「BUAISO」の2人からは、
天然藍を守らなくてはいけない、という使命感よりも、
大好きな藍にかかわるだけで楽しくてうれしい、
その魅力を素直に伝えていきたい、という想いがにじみ出ていました。

現在、灰汁発酵建ての藍染めは全体のわずか1%程度といわれていますが、
天然藍には、肌荒れ、冷え性を防ぎ、殺菌・防虫効果などがあるとされており、
身につける人を優しく守ってくれます。

かつては庶民のための染料であり、
「ジャパン・ブルー」と称えられる美しいこの天然藍に
まずは触れてみる機会がもっと増えたらいいなと思います。

  • プロフィール MUJIキャラバン隊
    長谷川浩史・梨紗
    世界一周の旅をした経験をもつ夫婦が、今度は日本一周の旅に出ました。
    www.cool-boom.jp
    kurashisa.co.jp

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