江戸切子
今や東京を、そして日本を代表する工芸品のひとつ、
「江戸切子」。
国内のみならず、海外からの評価も高いこのカットガラスは、
東京スカイツリーのお膝元、墨田区・江東区を中心に作られています。
その美しさを国内外に発信し続ける1899年創業の老舗、
墨田区にある「廣田硝子」を訪ねました。
「もともとは江戸のビードロ問屋が輸入品を模してカットガラスを始めたんです。
後にヨーロッパから技法が導入され発展していきました。
ただ、今やヨーロッパのものと比べても、日本人の繊細さが光っていますよ」
廣田硝子会長、廣田達夫さんが、
切子について丁寧に教えてくださいました。
日本には、私たちも以前鹿児島で見た「薩摩切子」(写真左)と
今回東京で出会った「江戸切子」(写真右)があります。
薩摩藩主、島津家の保護のもとで、優美さを追求していった薩摩切子に対し、
江戸切子は、あくまでも庶民のための切子として発展していった様子。
江戸切子も薩摩切子も作り方はほぼ同じです。
透明硝子の上に色硝子を被せ、回転する円盤状のダイヤモンドの刃に
ガラスを当てて、削って模様をつけていきます。
薄い硝子を同じ深さで削っていくわけなので
繊細な力加減と技術が必要で、失敗のきかない作業です。
「日常使いの江戸切子。一品ものではなく、ある程度の量産が求められます。
同じものを幾つも作れる技術が必要。
一日中作業できるように、手に力を入れすぎないようにも気をつけています」
その道21年の切子士、川井更造さんはそう話します。
そして、廣田会長が何よりも大切と語るのが、磨きの工程。
「最近じゃ手磨きの代わりに、薬品を使って仕上げてしまうところも多い。
ただ、最後の磨きで、質の高さが保たれるんです」
効率だけにとらわれすぎないものづくりが、ここにもありました。
しかし、分業制という江戸切子の生産現場では、実はこんな課題がありました。
硝子の生地を作る会社が現在2軒に減ってしまっているというのです。
そんななか、廣田硝子では切子のさらなる可能性を探り、こんな技術も開発。
一見普通の切子と変わらないこの文鎮(ぶんちん)は、
なんと色硝子の代わりに会津漆を使ったものでした。
また、長男で4代目の廣田達朗さんは、新たな顧客層を狙って、
新鋭のデザイナーと組み、
伝統的文様をよりモダンに昇華させたデザインを施した
「蓋ちょこ」を生み出しました。
これは国内外から評価を受け、類いまれな江戸切子の繊細さと可能性を
今一度、実感しなおしているそうです。
他にも、ランプシェードや、窓ガラスにも展開。
「江戸切子は庶民の手によって製作されてきたもの。
作品ではなく使ってもらえるものを作り続けていきたい」
その廣田会長の言葉通り、
ホットドリンクも飲める耐熱性の江戸切子も開発されていました。
そんな江戸切子を使ってコーヒーが飲めるカフェを、
次男の廣田英朗さんが運営しています。
スカイツリーのそばに佇む「すみだ珈琲」。
自家焙煎のコーヒーを、江戸切子で飲むことができるんです。
なんとも贅沢ですね♪
英朗さんは、
「家族でこうした歴史ある産業にかかわれていることが幸せ」
と語ります。
この旅でも、多く触れてきた伝統工芸。
それは観賞用としてではなく、日用品として使われることによって、
よりその時代に合わせて磨かれていくことを、
最後の東京、江戸切子で再認識しました。
そのためにも、私たち消費者が身近にあるモノづくりに
今一度、目を向けてみることが大切かもしれません。