MUJIキャラバン

砂糖革命

2013年04月17日

ふと目にした瞬間「かわいい!」と感じた
このカラフルなキューブ。

「MARUKICHI SUGAR CUBES」

雑誌で見かけて以来、気になっていたのですが、
これなんと砂糖なんです。

これまでの道中、塩、醤油、味噌、酢など、
数多くの日本の調味料を紹介してまいりましたが、
砂糖については、なかなか出会う機会がありませんでした。

それもそのはずで、
1997年に専売制が解かれた塩は、各地で生産が始まっていましたが、
砂糖については、実はまだ国の保護下にあるんです。

「砂糖業界は啓蒙が上手くない。故に適切な情報が伝わっていないと思います。
知られているようで、意外と知られていないのが"砂糖"なんです」

そう語るのは、昭和29年創業の日本橋にある砂糖問屋、
竹内商店の代表取締役、竹内信一さん。
上のシュガーキューブの開発者です。

「スーパーの調味料売り場に行くと、塩をはじめ他の調味料はたくさん並んでいますが、
砂糖だけ種類が少ないでしょう。砂糖売り場は哀愁が漂っている、なんて言われました。
業務用が大半を占める砂糖業界は、消費者向けもほとんど進化してこなかったんです」

印刷会社の企画営業を経て、父親の会社に入社した竹内さんは、
旧態依然とした砂糖の業界に驚いたと振り返ります。

それまで付加価値を追求する仕事が当たり前だったなか、
確実に仕事を進める力だけが求められ、定時に上がれる仕事に不安を感じる毎日。

そんななか世間は健康食ブームになり、いつしか砂糖は悪者扱いされるように…。

「このままじゃうちの会社の未来、ましてや砂糖業界の未来はない」

そう感じていた竹内さんの元に、原料糖の精製メーカー、
和田製糖が新しい砂糖を開発したという話が舞い込みます。

それは、原料に沖縄産サトウキビのみを用いた砂糖。

"本当に和の香りのする砂糖"という意味から
「本和香糖(ほんわかとう)」と名付けられていました。

砂糖には大きく、糖蜜を含んだ"含蜜糖"と、
糖蜜を分離させた"分蜜糖"に分けられますが、
この本和香糖は"含蜜糖"に含まれます。

いずれも原料は、サトウキビ。
サトウキビから精製された原料糖には、糖蜜などの不純物が含まれています。
沖縄などでは「黒糖」と呼ばれ、おやつのように食べることもありますが、
調理には雑味と捉えられることもあり、
不純物を分離した分蜜糖が多く流通しているのです。

グラニュー糖などの、見た目が白い砂糖は、
不純物がほとんど除去された糖分99.9%に近い分蜜糖といえます。

この本和香糖は、沖縄産の原料糖から糖蜜以外の不純物のみを除去した含蜜糖。
ミネラル分や風味を残した砂糖で、当時、世の中にはほとんど流通していませんでした。

「当時は藁にもすがる思いでしたね。
砂糖の新しい形を見せるには、本和香糖しかない!って思いました」

竹内さんは、和田製糖とともに業務用のみならず、消費者用にも展開を開始。

ただ、消費者用の売り上げがいくら伸びても
業務用が大半の売り上げを占める砂糖業界においては微々たるもので、
なかなか両社が一枚岩で取り組んでいくのは困難でした。

しかし、「ここでやらなきゃ誰がやる」と
竹内社長は独自ブランドの立ち上げに打って出ます。

それが、会社の屋号を冠にした「MARUKICHI SUGAR」です。

砂糖の卸し問屋としての立場を最大限活かし、
産地ごとに色みの異なる含蜜糖をバリエーション化。
風味の違いを楽しめる砂糖として、世に送り出していったのです。

「商品化も一筋縄ではいきませんでした。
いかんせん、問屋ですからやったことのない領域でしたからね。
ただ、一目で"これ何!?"って興味を持ってもらう仕立てにしたかった」

そこで活かされたのが、前職での経験とネットワークでした。

竹内さんの想いに呼応した元同僚たちが集い、
企画から生産までを一手に担える体制が整います。

竹内さんとともに事業を進める長澤智之さん(写真左)は、

「砂糖業界はまだまだ未成熟。その分、やり甲斐がある。
昔、貴重品として贈答品にされていたような砂糖を、現代に再現したい」

と、その想いを語ります。

生産を担う鈴木清隆さん(写真右)は、
奥さんとともに試行錯誤を繰り返しながら、生産効率の向上を目指しています。

「自分で作ったものが世の中に出せる喜び。愛着が湧きますよね」

鈴木さんは、仲間と一緒に世の中に新たな価値を仕掛けることに、
何よりの楽しみを感じているようでした。

「何でも過剰摂取は良くありませんが、
脳のエネルギー源になるのは、ブドウ糖のみなんです。
カロリーが高いといわれる砂糖は、1g当たりのカロリーは小麦とほぼ同じ4kcal」

竹内さんは、砂糖に対する正しい世の理解を得るために、
現在では、調味料マイスターの講座の講師などを務め、
様々な場面で、砂糖についての講演をして回っています。

「お菓子を作るにも、砂糖の種類を変えれば味は変わる。
風味豊かなおいしい砂糖があることを知ってもらいたいです。
そして、いつかはサトウキビから栽培してみたいですね」

TPPで揺れる日本の砂糖業界において、竹内商店は業界の救世主となるのか。

ただ、その活動によって、
砂糖の可能性が広がりつつあることに間違いありません。

  • プロフィール MUJIキャラバン隊
    長谷川浩史・梨紗
    世界一周の旅をした経験をもつ夫婦が、今度は日本一周の旅に出ました。
    www.cool-boom.jp
    kurashisa.co.jp

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