東京の山をキレイに
これまで何度か林業に携わる方のお話を伺ってきましたが、
「東京で林業に携わる若手チームがいる」
そんな噂を各地で耳にしました。
東京の最西端、西多摩郡檜原村(ひのはらむら)は約9割が山という環境で、
そこで活動する「東京チェンソーズ」は平均年齢36歳というから、
いろんな意味で驚かされました。
6人のメンバーは皆、父親が林業をやっていて仕方なく
というのではなく、自ら志願して林業の世界に入った人たちです。
代表の青木亮輔さんは、高校時代からキャンプをしたり、
自転車旅をしたりするアウトドア派で、
「探検部」のある大学に入り、日々、誰も行ったことのない場所へ行き調査する、
というワイルドな学生生活を送っていたそう。
卒業後、青木さんは電話営業の仕事に就いたものの、
やはり体を動かす仕事をしたいと退職。
「将来ずっと続けていくには、林業はいいかもしれない」
そう思って、大学で学んでいた林業の世界へ飛び込んだといいます。
東京都森林組合の緊急雇用に応募し、そのまま職員となった青木さんですが、
「自分たちの働く環境をもっとよくしたい」と、
同じ組合にいた仲間たちと、2006年に独立。
「林業は天候に左右される仕事なので、これまで日給月給制でしたが、
それを月給制でできないかチャレンジしてみようと思いました。
『林業は不景気だから仕方ない
』
と上司はよく言っていましたが、それでは何も変わらない」
青木さんたちは、森林組合の下請けの仕事からスタートし、
続いて、公共事業の入札にも参加するように。
しかし、入札制に対して、青木さんは次のように語ります。
「林業は作業単価が昔から低いんです。
農業・林業は食べるためになくてはならないけど、
林業は今なくなっても誰も困らない
。
入札制で価格競争になると、手入れがおろそかになりかねない。
本来は地域の作業員が自分たちで手入れをする方がいいんです」
最近は、他地域の事業者が檜原村の作業をするようにもなり、
林業が地域密着とはいえなくなってきたといいます。
「地域の人に理解してもらおう! 地域に根差した企業にならないと!」
と、コツコツ信頼を積み重ねてきた東京チェンソーズは、
今では山主から直接仕事をもらえるようになりました。
「林業って銀行のような仕事。山(=お金)を預かっているのと同じですから。
責任は大きいけど、今後も直接仕事をもらえるようにしていきたい」
と青木さん。
そして、そのために、まずは自分たちの存在を知ってもらいたい
とFacebookやTwitterを通じて積極的に情報発信をしています。
元ライターで、東京チェンソーズの広報も担当する木田正人さんは、
「東京チェンソーズをキッカケに東京の山について知ってほしい」
と話します。
東京チェンソーズでは、日々の活動内容の発信はもちろん、
「チェンソーボーイズコレクション」と題して、
作業姿の写真をメンバーが個人的に公開したり、
一般の人が林業に親しみを持てるようにしています。
また、普段なにげなく見ているだけの木に触れ、登ることによって、
よりいっそう木を身近に感じてもらおうと、
"ツリークライミング体験会"も開催。
これまで"育林"を中心に行ってきた東京チェンソーズですが、
今後は間伐材を利用していくフェーズに。
「昔は日本の木が育っていなかったために、外材を使っていましたが、
国産材が育った今はそれを使う方がいい。
木も他の農産物と同様、輸送費が少なく、その地域に合った木が育っているから
本来"地産地消"がいいんです。
東京の木を使えば東京の山がキレイになりますからね」
と青木さん。
私たちの身の回りには木材製品がたくさんありますが、
それがどこで育った木なのか、誰が手入れをして切り出した木なのか、
そうしたことを考えてみることが、林業を知る初めの一歩かもしれません。