スローライフを追求する
今ではすっかり定着した「スローライフ」という言葉。
この言葉の根底にあるのは、1989年にイタリアで始まったスローフード運動だそう。
大量生産・効率優先のファストフードに対して、
「地元の食材や文化を大事にしよう
」と唱えられました。
そして、その考え方をくらし全般に取り入れたのがスローライフです。
日本でスローライフという言葉が使われるようになったのは
2001年前後からといわれていますが、
同年、スローライフを追求するための場所として誕生した、
1軒のカフェがありました。
府中市で生まれ、現在は国分寺駅から徒歩5分の場所にある、
「カフェスロー」へ。
平日の開店前からお店の前には人だかりがあり、
開店後、店内にはお子様連れの方たちをはじめ、すぐに満席になりました。
「スローとは遅さという時間の概念だけではなく、
自然や人・地域とのつながりを取り戻すという意味です。
カフェはいわば手段で、ここからどれだけ情報を発信できるかでしょう」
と、カフェスロー代表の吉岡淳(あつし)さんは話します。
吉岡さんは日本ユネスコ協会連盟元事務局長であり、
世界平和の促進と教育・環境・文化の国際協力を進めるユネスコNGOで
30年間働いてきました。
「NGOの活動は、資金の確保が最大の業務で持続可能ではなかった。
もともと私はファストな人間で、日々朝から晩までハードに働き、
ふと自分の生活を見た時に、仕事とくらしがつながってないなと思ったんです」
そんな折、吉岡さんに転機が訪れます。
当時、住んでいた府中市の市長選出馬へのオファーでした。
悩んだ末に、ユネスコの仕事を辞めて出馬した吉岡さんでしたが、あえなく落選。
吉岡さんはそこで、「どんなに立派な言葉や公約を並べても、
候補者自身の存在が有権者に信頼感や安心感を与えられなければ票につながらない。
地に足の着かない言葉は人の心に響かない」
ということを学んだといいます。
久しぶりに自由に過ごせる時間を持った吉岡さんは、
これまで出掛けたことのなかった地域へと旅に出ました。
そこで出会ったのが、自分たちも地球に負担をかけない生活を営んでいる、
カリフォルニアの環境運動家の若者たちでした。
「言っていることと、やっていることを一致させてこそ本物だ」
そう感じた吉岡さんは、地域の中でカフェを開き、
そこを拠点に活動していくことを決め、カフェスローをオープンさせました。
"安心安全で安らげる場所であり、情報が得られる場所"
を目指して作られたカフェスローでは、
関東近郊で採れ放射線検査をパスした、
安全で新鮮な食材を使った手作り料理を提供したり、
生産者の暮らし方が分かり、
フェアトレードという物語のある生活雑貨や食品などを販売したりしています。
また、毎週金曜日の夜には、店内の電気を消して
蜜蝋ろうそくの灯りで営業する「暗闇カフェ」を実施。
他にも、食材の生産者のトークライブを開催したり、
様々なイベントを行っています。
「世の中、2割以上の人が意思すれば世界は変わる。
世の中には情報があふれているけど、人々が本当に欲しい情報は探さないとない」
と吉岡さん。
カフェスローでは、上記の他に、お客様に情報を届ける
こんな工夫を見ることができました。
「知ることからはじめよう」と書かれた、閲覧本のコーナーや、
「つづくたねの野菜メニュー」と題した、
全国の在来種を使ったプレートを提供された際には、
"種"について知ることのできるペーパーが添えられていました。
さらに、カフェスローでは、
お金を稼がないと何もできない生活に疑問を呈し、
人と人の信頼を活かせる「地域通貨」の導入も行っています。
「オープンしてから13年。ようやく周りに認知されてきたところです。
多店舗展開ではなく、"続けること"が大事。
ここがつぶれたら『スロームーブメントはそんなものか』
といわれてしまいますから。
Small is beautiful.奇をてらうことをやるよりも、
人々が求めているものの半歩先を行くことを大切にしたいですね」
最後に印象的だったのが、吉岡さんのこの言葉です。
「今の時代どこに住んでいても安心安全なわけではない。
場所によって右往左往するのではなく、
今いる場所で自分のくらしを見つめ直すことが、スローライフの第一歩」
4月に新生活をスタートさせた人も多いなか、
今一度、自分のくらしについて立ち止まって考えてみてはどうでしょうか?