伯州綿
鳥取県米子(よなご)市の米子駅から鳥取県境港市の境港駅に至る、
JR境線の上道(あがりみち)駅は別名「一反木綿(いったんもめん)」駅!
一反木綿は、鹿児島県の肝付町(きもつきまち)に伝わる木綿のような妖怪で、
かつては比較的無名な妖怪だったものの、
「ゲゲゲの鬼太郎」に登場してから一躍、名が知られることに。
なんでも境港市の観光協会による「第1回妖怪人気投票」では1位に選ばれたそうです。
そして、この駅の前には偶然にも"コットン"畑が広がっていました。
実は、ここは境港市が管理している「伯州綿(はくしゅうめん)」の畑なんです。
「伯州綿」とは、300年以上前の江戸時代前期に
鳥取県西部・伯耆国(ほうきのくに)で栽培が始まった綿で、
最盛期には一大産地を形成し、北前船によって全国各地へ運ばれ、
鳥取藩の財政を支えるほどのブランド綿だったそうです。
しかし、関税撤廃による、安価な外国産綿の台頭により、
国の伝統的工芸品のひとつ「弓浜絣(ゆみはまがすり)」の主原料として
一部栽培される以外はほぼ衰退してしまいました。
2008年に耕作放棄地の解消策として、
休耕地の管理耕作用の作物を検討していた市役所職員が、
在来種の和綿「伯州綿」の試験栽培を行ったところ成功。
少ない労力で高齢者でも一定面積の栽培が可能なことが分かり、
2009年からは国の雇用対策事業を活用して本格栽培に取り組んでいます。
2009年度は約1ヘクタールにつき約668キログラムの収穫があり、
2012年11月現在、6人の職員を雇用して、約2.6ヘクタールで栽培を行っています。
綿の栽培方法は、かつての生産方法と同様に、
農薬ならびに化学肥料を使いません。
防草のためにマルチ栽培を行ったり、
天敵であるアブラムシ対策に、水で薄めた牛乳をかけたりと、工夫を凝らしています。
それでも、やはり除草作業には人手が必要 。
「昨年から"栽培サポーター制度"を導入して、
市民のみなさんにも栽培を手伝ってもらっているんですよ」
そう教えてくださったのは、境港市商工農政課の大道幸祐さんです。
"栽培サポーター制度"とは、境港市農業公社が畑の整備を担当して貸し出し、
種植えから収穫に至るまでの一連の作業を、一般の市民に参加してもらい、
最後にできた綿を農業公社が買い取るというもの。
現在、個人とグループ合わせて、
13組78人がサポーターとして参加しているようです。
私たちキャラバン隊が今回この「伯州綿」について知ったのも、
実は今年サポーターとして栽培に参加した方からの情報でした。
サポーターの方々によって収穫された綿は、加工され、
境港市の新生児および100歳になられる方に、
それぞれ伯州綿製品の「おくるみ」と「ひざかけ」として贈呈されています。
試しに触らせていただくと、ふんわりと柔らかい肌触り!
生成りの色合いが優しく、ぬくぬくと体を温めてくれそうでした。
また、前の年におくるみを受け取った親子は、
次年度の新生児のために種を蒔き、栽培に参加していくという取り組みもあるそう。
地元の特産品を、生まれた時から肌に触れて知ることができ、
また、ペイ・フォワードしていく(自分たちがしてもらったことを次へつなげていく)
このサイクルはとっても素敵ですね!
先月の10月には、国産綿について意見交換をする、
「2012全国コットンサミットin境港市」を開催。
全国の国産綿の主な栽培地などから、総勢約700人が参加し、
「伯州綿」の魅力を全国に発信しました。
「伯州綿は繊維が短いので加工が難しいのですが、
弾力があって、軽くて暖かいのが特徴です。
そして、何より農薬や化学肥料を使っていない国産綿は貴重です。
食だけでなく、"衣"にも安心安全の意識を持ってもらえたらいいですね」
農業公社では、今後、伯州綿の茎を使った和紙づくりや
綿の実から採れる油を石鹸などの加工品に使えないかと、
副産物の活用も視野に入れています。