バタバタ茶
各地を旅していると、ご当地食材に出会いますが、
なかでも、必ず各地で見かけるのが「お茶」。
千葉では「びわ茶」、茨城で「そば茶」、
栃木で「はと麦茶」、群馬では「桑茶」というように。
ふと考えてみると、お茶は日本国内だけならず、
世界中で様々に飲まれていますね。
私たちが以前世界を回った時には、中国はもちろんのこと、
イギリスのイングリッシュティーをはじめ、
インドのチャイ(ミルクティー)、トルコのアップルティー、
チベットではバター茶なんていうのもありました。
現地では、(特にインドやトルコでは)お茶そのものを楽しむというよりも、
お茶を飲む時間を使って、コミュニケーションを楽しんでいるという印象で、
朝から夜まで、至る所でお茶をしている人々をよく見かけました。
さて、新潟県との県境に程近い、富山県朝日町蛭谷(びるだん)の集落には
今でも独自のお茶文化が残っていると聞いて、行ってきました。
向かった先は「バタバタ茶伝承館」。
公民館のようなその施設の扉を開くと、
「いらっしゃい〜」とおばさまたち。
ちょうどお休みの日で、近くに住むお孫さんたちも遊びに来ていました。
「まぁ、飲んでいってちょうだいよ」
と、グツグツと煮え立つお鍋の中から器にお茶を注ぎ、
慣れた手つきでお茶を点て始めます。
カタカタカタ
2本連なった珍しい茶せん(夫婦茶せん)を使って
左右にお茶を泡立てて飲む。
そう、これこそが蛭谷で飲まれている「バタバタ茶」です。
バタバタというより、カタカタ音がするから、
カタカタ茶の方が合っているかも?
そんなことを思っていると、このバタバタとはお茶を点てる音ではなく、
あわただしくバタバタと茶せんを左右に振る動作を指している
と教えてくれました。
この地域では、ご先祖様の命日や、その他結婚式や入学式などの行事の際に
お茶会を開くんだそうです。
もともとは浄土真宗の儀式のひとつで、
自分たちがお茶をいただく前に、まずは仏様に供えるんだとか。
また、2009年からはこの伝承館において、
近所のおばさま方が交代制で番を務め、近所の人をはじめ、
私たちのような訪問者を温かく迎え入れ、お茶会を開いているのです。
お茶会と聞くと、なんだか難しい礼儀作法とかいろいろとありそう
。
そう伝えると、バタバタ茶においては、決まり事はほとんどなく、
自由に、何杯でもお茶を飲んでいいといいます。
早速、私たちもバタバタ茶を点ててみました!
手首の力を抜いて、左右にカタカタ、カタカタ。
徐々に泡立っていくのが面白い!
こうして、泡を立てることでマイルドな味になるんだそうですよ。
ちなみに、小学校低学年のお孫さんも上手にお茶を点てていて驚くと、
以前までこの地域にあった幼稚園では、
子供たちにもバタバタ茶の文化を伝承していたそう。
そんなバタバタ茶の原料は、「朝日黒茶」というもの。
お茶は製造方法によって基本的に、
不発酵茶・半発酵茶・発酵茶・後発酵茶の4つに大きく分けられるといいます。
それぞれ代表的なものに、不発酵茶は「緑茶」、
半発酵茶は「ウーロン茶」、発酵茶は「紅茶」があり、
「黒茶」は後発酵茶に該当します。
紅茶・ウーロン茶が茶の葉に含まれる酵素の働きで発酵して作られるのに対し、
黒茶は酵素の働きをいったん止めた後、こうじ菌の働きで発酵させるのだそう。
また出てきましたね、"発酵"に"こうじ菌"というキーワード。
これまでも、お醤油や日本酒、納豆づくりに欠かせないものとして
登場してきましたが、お茶にまでこれらがかかわっているとは!
バタバタ茶のお茶請けには、地元で採れた山菜や野菜の煮付け、
漬け物などがつくのが一般的。
お茶請けというと、和菓子のイメージを持ってしまっていましたが、
そういえば、これも各地で違うかもしれませんね。
茨城や栃木では、お茶と一緒に"おせんべい"が出てくることが多かった気がします。
月・水・金・土の10:00~15:00に開館している伝承館は、
その名の通り、バタバタ茶の文化を後世に伝承していく場でもあり、
地元の人の大切なコミュニケーションの場でもあります。
知らない人が来たからといって、嫌な顔をせず笑顔で迎え入れてくれる。
そして、お茶を飲みながら世間話をして、ゆっくりと時間が過ぎていく。
なんだか、海外を旅した時に味わったような感覚を思い出しました。