萩焼
萩市内には、縫うようにして藍場川が流れていますが、
かつては農業用水路のほか、日常生活にも利用され、
川舟もここを通っていたそう。
現在は鯉が放流されていて、風情あふれる町並みを演出しています。
そして、この萩市一帯で焼かれている陶器が「萩焼」。
無印良品でも以前FoundMUJIの日本の10窯で販売し、
現在"めし茶碗"は通常店舗でも取り扱っています。
今回はその生産窯を訪ねました。
最初に、この萩焼を手に取ってみて気づいたことを、
生産者の礒部さんにぶつけてみました。
「なぜ、高台部分に切れ目があるのでしょうか?」
諸説あるようですが、一般的に知られているのは、
もともと御用窯で、身分の高い人しか使うことができなかった器を、
意図的に切り欠きを入れて"キズ物"とすることで、
庶民にも手の届く雑器としたのではないかということ。
「この切り欠きは、実は作る時と使う時にも
それぞれメリットがあるんですよ」
と礒部さんは続けます。
切り欠きを入れることで、
高台部分の土が乾きやすいということ、
また、焼成時に熱が伝わりやすいところが理に適っているそうです。
使う際には、熱いお茶を入れて茶托にのせた時に、
高台の切り欠き部分から空気が入るので
持ち上げても茶托がくっつかないことや、
食器洗浄機で洗う際に水が溜まらないのが、
今の時代の生活にも合っています。
萩焼は古くから、「一楽・二萩・三唐津」と謳われ、
茶人の間で広く愛好されてきました。
それは、陶土に吸水性があり、使っていくにつれて
貫入(かんにゅう・表面の細かいヒビ)を通してお茶がしみ込んで、
その色や艶の変化(萩の七化け)を楽しむことができるため。
絵付けによる装飾はほとんど行われない萩焼ですが、
陶土の配合、釉薬の掛け具合、焼成の仕方によって、
シンプルですが、とても味わい深い表情が出ています。
陶土は山口市で採れる「大道土」(白色)、
日本海に浮かぶ離島・見島で採れる「見島土」(赤土)、
萩市の東方で採れる「金峯(みたけ)土」(白土)を
混合して使いますが、
下の写真のように全く違う色の表現が可能です。
また、こちらの「梅花皮(かいらぎ)」という模様は
陶土と釉薬の収縮の違いを活かして作られたもの。
釉薬が溶け切る手前で火を止めるそうですが、
タイミングを見計らうのが難しいそうです。
さらに、
「後から来る酸化を楽しむのも萩焼の特徴かもしれませんね」
と礒部さん。
土に含まれる鉄分が、空気に触れることで赤みを帯び、
美しいグラデーションを生み出すのです。
使うほどに味わいが増していく萩焼は、
地元の陶土や釉薬の特徴を熟知し、
長年培ってきた焼成技術を持つ職人さんたちによって作られていました。
現在でも萩焼の窯元は80以上あるといい、
また、山口県民の多くが何かしら萩焼を自宅に持っているんだそう。
地元で作られ、地元で愛されている萩焼だからこそ、
県外の私たちにとってもなじみやすい民陶となっているのかもしれません。
「約400年前にこの地で生まれた萩焼の歴史を大事にしたい」
そう語る、礒部さんの言葉を聞いて、
歴史と作り手の想いが詰まっていて、
使い込むごとに味わいの増す器を、日常使いしたくなりました。