おもしろく生きる
「日本のものづくりの行き過ぎた空洞化は避けなくてはいけない」
山口市でデニムブランド「匠山泊(しょうざんぱく)」をプロデュースする、
岡部泰民さんは開口一番、そう切り出しました。
日本のデニム産業と聞くと、岡山県が有名ですが、
その生産工場は周辺地域に点在しており、山口県もその一つ。
その多くが生産コストの合理化を求め、後に海外に生産工場を移していますが、
岡部さんの工場は、今も山口市内に5つの工場を構えています。
岡部さんが国内生産にこだわるのには、あるきっかけがありました。
1999年、仕事でヨーロッパに視察へ訪れた際、
スペインのアパレルブランドの台頭を目の当たりにします。
それは、フランスのアパレルブランドが
生産工場をスペインに置いてきたため、技術が移転したことによるもの、
という実態を知り、未来の日本と中国をはじめとしたアジア諸国との関係が
それとシンクロして見えたんだそう。
「ものづくりの拠点を残しておかなくては、
日本には何も残らなくなってしまう」
そんな危機感から、ひたすら国産ブランドを追求し、
2005年に「匠山泊」を立ち上げました。
洗練された日本の加工技術と最高品質の素材を結集し、
生まれたブランドです。
「ものづくりというのは、価値創造だと思っているんです。
ものは意思を持ちませんが、価値には意思を込めることができる」
そう話す岡部さんが昨年リリースした新シリーズ「Re維新」には、
日本のものづくりに対するたくさんの想いが込められていました。
まず、プロデュースに携わったのは、日本の叡智を結集した顔ぶれ。
生地には動きやすく夏場でもむれにくい国産素材が使用され、
細部にまで日本の技術の結晶が光っています。
特筆すべきは、バックポケット。
かつての長州藩士、高杉晋作率いた奇兵隊の隊旗がモチーフにされ、
そのポケット状の内部には、
自らの"想い"を入れて縫合できるという仕立てになっています。
維新期の志士たちが、襟に自らの信念を入れていたことに着想したそう。
もちろん、岡部さんも「Re維新」を身に着けていたので、
内部に込めている"想い"を聞いてみると
、
「おもしろく生きる」
高杉晋作の名言「おもしろきこともなき世をおもしろく」を
彷彿とさせる言葉ですが、
岡部さんには、脈々と長州人のDNAが受け継がれているように感じました。
「私は父親から、自分が世に生まれてきた使命を考えろ、と育てられましてね。
松下村塾の吉田松陰先生も、"自分を使う"≒自分がこの世の中で何を為すか、
これに注力していらっしゃった。私も人生を楽しみながらそう生きたい」
まるで現代の吉田松陰のようにも思える岡部さんは、
「Re維新」シリーズを自らが手掛けるデニムにとどまらず、
山口の様々な名産品にまで広げ、その良さを全国に発信しようとしています。
また、若手の育成にも積極的で、
メイドインジャパンのアパレルファッションを世界へ発信しようと
2009年までの10年間、山口市で
「ジャパン・ファッションデザインコンテスト」を開催。
若手ファッションデザイナーやモデルの登竜門となったこの大会からは、
今も様々な場面で活躍する人材が輩出されました。
「大人の役割は、機会を作ってあげることだと思っているんで」
そう話しながら優しく微笑む岡部さんは、
最後に日本のものづくりに対して熱く語ってくださいました。
「成熟した文化の日本には、様々な価値のものがあって然るべきだと思います。
その中で、日本のものづくりは高付加価値で在らねばならない。
高付加価値とは物を超越したもの、『人』その中の『心』が創り出すものです。
歴史的にも高い生活文化を伝承している山口から、
高付加価値なものづくりを発信し続けたい」
長州人の魂が脈々と継がれている岡部さんからは、
日本人としての誇りを感じずにはいられませんでした。