MUJIキャラバン

ビタミンやまなし

2013年03月25日

「富士山、武田信玄、フルーツにワイン…
山梨には単体では有名なものが多いんですが、
これまでそれらと山梨があまり結びついてこなかったんです」

「こんなに観光資源に恵まれているんだから、ちゃんとそれを生かしていかないと!」

そう話すのは、山梨県 観光企画・ブランド推進課の
佐藤浩一(ひろかず)さんです。

山梨県では、2009年から「ビタミンやまなし」と題し、
A~Zの頭文字に合わせて山梨の観光資源をPRするキャンペーンを仕掛けています。

例えば、AはAqua(水)、

QはQuiet(静かさ)、

SはSpa(温泉)…。

「実はいずれも"美・健康・癒やし"に紐づくものなんです。
そして、これらは首都圏に住む30~40代の女性の興味とシンクロする」

今回の「ビタミンやまなし」キャンペーンは、
都会で生きる女性たちに届けたい26の栄養素(ビタミン)として、
明確なターゲットを設定し、行ったそうです。

「広く、あまねく、平等に」が基本スタンスの行政において、
ここまでターゲットを絞った戦略は珍しいです。

「これまでのPRはやっている側も、見る側も、
誰に向けてのメッセージかが分かりにくかった。
今回は、発信力・行動力・購買力の強い層に向けて"えこひいき"しました」

昨年は「女子会推進課」を県庁に設置するなど、次々と斬新な戦略を打ち出し、
全国から注目を浴びています。

「地域資源はどこにでもありますし、PRもどこもやっていますよね。
山梨が違うのは、きちんとした戦略を持っていることではないでしょうか」

順序よく、とても分かりやすく説明してくださった佐藤さんですが、
話を聞いていると、県内外の人脈がとても多いことが分かりました。
仕掛け人の佐藤さんご自身にも興味がわいて、根掘り葉掘り聞いてしまいました。

すると…

「僕は実は八百屋の息子なんですよ。
小さい頃からごはんを食べていても、お店にお客さんが来たら対応する。
目の前の人、ゲストを楽しませることが僕の基礎にあるんでしょうね」

佐藤さんはプライベートの時間を使って、
9年前から「得々クラブ」という名のコミュニティを創設。

「自分たちにとって、得になる情報を共有しよう」というコンセプトのもと、
地元の本屋さんで購入した課題図書を月1回ディスカッションする「読書会」や、
朝の時間を有効に使うための「三文会」、
公務員のための「ワンコイン学習会」など、各種勉強会を行い、
様々なインプットをしながら、
山梨県内外の異業種の方とのネットワークを築いていました。

「先月の読書テーマが『武士道』だったんですけどね。
それを読んで分かったことがあって。僕は『商人道』なんだなぁって。
人と人との関係の中で生き続けているんです」

佐藤さんが仕掛ける山梨のPR戦略は、表面的なものではなく、
人とのつながりの中から有機的に生み出されたものでした。

Koo-fu

「ビタミンやまなし」のJはJewelry(宝石)。

かつて水晶の原石が発掘され、研磨加工技術が発展していった山梨県は、
国内唯一の県立ジュエリー専門学校を有し、
国内ジュエリーの約1/3を生産する、日本一のジュエリー産地です。

現在、水晶原石は枯渇してしまいましたが、
1000社を超えるジュエリー関連業者が、今も技術に磨きをかけています。

ジュエリーの素材である宝石の研磨・彫刻から、
それを使ってジュエリーを作る貴金属加工まで、
ジュエリーを完成させるすべての工程が賄えるのは、世界的にも珍しいんだとか。

今回お話を伺った、ピアス&イヤリングメーカー、
(株)イノウエのジュエリーデザイナー大森弘子さんは、
高校の授業で彫金を体験してから、その面白さに目覚めたといいます。

「紙切れの上だけではいいものは生まれないと思うんです。
山梨は職人さんとデザイナーの距離が近い、とっても恵まれた地です」

大森さんは新作の企画を考える際には、職人さんと頻繁に相談しながら進めるそう。

そんなジュエリー産地の山梨県は、業界の更なる活性化を目指し、
2008年に産地ブランド「Koo-fu(クーフー)」を立ち上げました。

「Koo-fu」の名は"甲府(Koufu)"から来ていて、
海外に発信していく際にも分かりやすいようにとのこと。

希望するメーカーのデザイナーが参加し、同じテーマで意見を交わしながら
各メーカーがKoo-fuで開発したオリジナルの素材を使った
ジュエリーを作るプロジェクトで、(株)イノウエも参画。
大森さんはこれまで4回担当してきました。

「初めて他のメーカーのデザイナーさんと交流して勉強になりました」
と語る大森さんの作品は、
どれも洗練さの中に力強さがあふれるものばかり。

「小さい頃から、買ってもらったおもちゃで遊ぶよりも、
自然の中で創作して遊ぶのが好きでした。
身に着けるとワクワクするような、
気持ちを動かすことのできるアクセサリーを作っていきたいですね」

(株)イノウエには、デザイナーの大森さんをはじめ、
職人さんにも若手が多くいらっしゃいました。

県内の専門学校で学び、地元のジュエリー企業で働き、業界を盛り上げる。
将来の担い手が今も育っている山梨県のジュエリー業界の未来は、
キラキラと輝いているようでした。

  • プロフィール MUJIキャラバン隊
    長谷川浩史・梨紗
    世界一周の旅をした経験をもつ夫婦が、今度は日本一周の旅に出ました。
    www.cool-boom.jp
    kurashisa.co.jp

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